「不特定かつ多数の者の利益」とは


※本記事はYouTube動画より書き起こしたものです。一部読みやすいように加工してあります。

 

こんにちは、出口でございます。

 

 

今日は前回に続き、「公益目的事業とはなんぞや?」をテーマに、その後半にあたる部分となります。
「不特定かつ多数の者の利益」とはどういうことかいうことをお話ししたいと思います。

 

 

不特定かつ多数というのは柔軟に解釈されるものでありまして、「不特定かつ多数者の利益」とは「社会に貢献する」を言い換えたものというふうにご理解ください。
例えば、特定の学校の生徒に対する奨学金は、その学校では不特定の人が入学しうるものなので公益と認定されるものです。
また、見かけの人数の多い少ないで判断されるわけでもありません。極めてまれな人にしか罹患しない難病支援等も、潜在的には不特定の人が罹患しうるものなので公益と認定しているものである、というふうに考えております。
公益の増進という立法趣旨に照らして、これは個別に判断されています。

 

前回(「どんな社会貢献事業も公益目的事業になる!?(公益認定法2条別表)」)ではほぼ間違いなく100%大体どこかに入りますよという言い方ができましたが、不特定かつ多数というのは個別に、あくまで個別に判断されるものではありますが、これもあまり杓子定規に考えるべきものではありません。
これは前回も出しましたが、「公益目的事業とは何ぞや?」については認定法の第二条四号にこのような形で定義されています。

 

 

別表各号に掲げる事業であって、不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するものをいう――「別表に該当するというAの部分」と「不特定かつ多数の者の利益のBの部分」この2つから成り立っています。

 

 

したがって、Aというものにまず該当してます、その上でBというものに該当します、ということを事実認定するにあたり、留意すべき事項をピックアップしたのが実は「チェックポイント」と呼ばれるものです。
これは「ガイドライン」(公益認定等ガイドライン)の後半のところについております。
ただ、このチェックポイントは、必ず全部クリアしないと認定できないというものではありません。これは当初(公益法人制度改革)に非常にたくさんの(旧制度から)移行する法人を認定しなければいけないことから作られたものです。
このチェックポイントも、上手によくその趣旨を考えて使わないとまたおかしなことになります。総じて、こういう考え方で考えると不特定多数とかその他特別の利益とか、そういった点がクリアできるという形になっています。

 

 

それでチェックポイントの考え方ですが、「不特定かつ多数者の利益になっているか」というのは、「社会に貢献する」といった程度の意味です。
受益対象者が例えば公益法人の構成員とか特定のものに限定されるような事業を主目的とするものは公益法人としては不適当、というのがこの改革前の指導監督基準にありました。そのことを踏襲しています。

 

具体的に何なのかというと、例えば懇親だけを目的とした同窓会だとか、あるいは特定の政治家を応援する講演会だとか、そういったものですね。
ですから、これ、積極的に不特定かつ多数者の利益になっているということを示すというよりも、特定の者の利益の増進になっていないということを事実認定として示すことでクリアしていきましょう、というのが基本的な考え方で、そのことは公にされております。

 

事実認定上の留意点を検討するにあたり、事業の特性に応じて検討する必要があるのでチェックポイントというのができている、というふうにお考えて下さい。
さらに言えば、見かけの人数の多い少ないではないんだということです。

 

 

立法時の考え方は、このように当時の内閣府の議事録に出ております。国会の答弁案を作った段階で我々は立法に関わったものとして申しあげると、特定少数の難病者がいました。その人たちの救済をするのはどうなんだろうか、そのための研究開発というのはどうなんだろうか、ということを考えると、国民すべからくその病気になる可能性があるわけですから、潜在的には不特定かつ多数と考えてよいのではないだろうか、というのが立法に関わった人たちの考え方です。
あるいは、特定の地域の特権の非常に恵まれない人たちを支援するというときにも、これは潜在的に多くの人がその環境に置かれる可能性があるとすれば、たまたまそこで表面上は特定の人の支援ですけれども、潜在的にはそれは不特定多数の者の利益といえるかもしれない――そこまで考えていましたよというのが、この内閣府公益認定等委員会の議事録で公開されています。

 

ある非常に狭い領域のところで支援すべき人が出ている、実際にそういう人たちがいるというようなときに、そこを応援しようという場合、不特定かつ多数を理由にしての排除はしないでほしいという立法意思と言っていいと思います。

 

 

もう少し具体例を挙げると非常に分かりやすくなると思いますが、例えばある企業の役職員の子弟だけを対象に奨学金を出すといった場合、これは「特定されている」とい考えていいと思います。ですから公益としては向かないのではないかという結論になろうかと思います。
一方、Aという高校があったとして、その生徒だけを対象に奨学金を支給する。これは不特定の人が入学できるわけですからOKではないか、と。いくら過疎地にあって人数が少ない高校であろうと、それは公益と見なせるだろうということです。

 

これについてもあくまでも個別判断になってきますから一概にこうだとは言いにくいのですが、先ほど申し上げたようにある区域の子弟に奨学金を出すという場合、区域は確かに画されています。しかしながら、厳密にいえば特定はしていてもその地域の学生に出すというやり方であれば、これは不特定多数といっていいのではないか、というのがやはり立法にかかった事務の方々、立法者の意思です。ですからこれを尊重して各内閣や都道府県の委員会の方々にご判断いただければというふうに思います。

 

 

ということで、是非、公益認定の申請をお願いいたします! 立法趣旨は公益の増進です。どうぞよろしくお願いいたします。

 

解説者Profile
出口 正之
内閣府公益認定等委員会元委員 /(公財)助成財団センター 代表理事・理事長 /(公社)非営利法人研究学会 理事 / 専門誌「公益・一般法人」編集委員長 / 国立民族学博物館名誉教授・総合研究大学院大学名誉教授
政府税制調査会特別委員、非営利法人課税ワーキング・グループ委員、内閣府公益認定等委員会常勤委員などを歴任。
主な著書に『公益認定の判断基準と実務』(全国公益法人協会)、『初めての国際学会』(日本評論社)、『フィランソロピー 企業と人の社会貢献』(丸善)など。

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