公益法人の情報開示
―公益認定と財務諸表との連携―

兵頭和花子
(ひょうどう・わかこ 大阪経済大学経営学部教授)

 

 「新しい時代の公益法人制度の在り方に関する有識者会議」が社会的課題解決のために民間の力が必要として公益法人の制度改革の必要性を訴え、議論が重ねられた結果、本年4月から新制度が施行された。
 今般の改革で収支相償が中期的な収支均衡へと変更になったり、公益充実資金の創設や予備財産を持つことが可能となるなど、公益法人が柔軟な「公益」活動を行うことができる制度へと変更されたといえる。
 しかし、認定法では、収支均衡を求める点等は改正されたが、財務規律に関する条文(認定法5条・14条)がなくなったわけではない。逆に「公益法人等の責務」として、新たに財務に関する情報の開示や透明性の向上を図るように求める条文(認定法3条の2)が追加された。
 すなわち、公益法人では「公益」活動を行うように公益法人の活動(及び活動のための費用)が規制され、その遵守が公益認定と連動している点は大きく変わらず、公益法人ではこれらの基準を満たしていることを示す情報開示を行う必要があるといえる。
 また、これまでは財務諸表上では正味財産を一般正味財産と指定正味財産に区分して公益法人が負う受託責任を果たしたことを示していた。このために一般正味財産と指定正味財産の区分や振替処理が行われていた。しかし、今般の改革では正味財産増減計算書は活動計算書へと名称が変更され、一般正味財産と指定正味財産の区分表示は活動計算書本表では行われない。活動計算書では、経常活動とその他活動に区分し、振替処理を見直すこととなった。すなわち、活動計算書では当該公益法人全体の正味財産(純資産)の増減内容(損益状況)のみ表示することになり、簡素化されたといえる。このことは、本表は簡素でわかりやすく、詳細情報は注記等で行うとする方針から出てきたものと思われるが、財務諸表そのものの意義を問う問題や公益法人の実態を表しているといえるかといった問題を内包している。
 実務的には公益法人側では財務諸表作成の負担軽減とステークホルダー側の理解容易性とを同時に満たすような財務諸表、例えば、本表上で正味財産(純資産)を一般正味財産(純資産)と指定正味財産(純資産)に区別して並記することなども考慮するべきである。また、公益認定の遵守ばかりに偏った情報開示は本来の財務諸表が果たすべき役割を軽視することにもなり、両者のバランスが大事である。

 

執筆者Profile
兵頭和歌子(ひょうどう・わかこ)
神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程満期修得退学。神戸大学博士(経営学)。兵庫県立大学講師、准教授、教授を経て現職。国際公会計学会理事、日本簿記学会理事。著書に『非営利組織における情報開示―英国チャリティ会計からの示唆―』(中央経済社、2019年)、『近代会計史入門(第2版)』(共著、同文舘出版、2019年)。その他論文多数。

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