第4回 外来語の「誤訳」に見る浮世の大変と処世術
2022年04月06日
藤島寒月
(ふじしま・かんげつ フランス現代社会学者)
(ふじしま・かんげつ フランス現代社会学者)
日本語で「湯」と言えば「風呂」だが、中国語で「湯」と言えば「スープ」だ。「湯」という漢字のルーツは言うまでもなく中国だから、「湯=スープ」が本来の意味なのであろう。つまり、日本では今や誰も疑問に感じることのない「湯=風呂」は、れっきとした「誤訳」なのである。今回は、この例に見る外来語の「誤訳」事情について考えてみたい。
言葉は人々の生活に寄り添う
「湯」という漢字が日本に移入されたとき、この文字は「暖かい液体」を意味するものと、取り敢えず理解された。しかし、文化人類学の教えによれば、言葉は人々の生活に寄り添う。稀有な高温多湿の風土ゆえに風呂好きが多数派を占める日本人にとって、「暖かい液体」は日常的かつ直感的には湯船に張られた「お湯」を連
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