ミッション遂行に重要な収蔵品は財産目録に記載を

(おのえ・えりや 日本大学教授・(公社)非営利法人研究学会常任理事)
博物館や美術館は文化遺産として収蔵品を保存・保管し、展示している。博物館等が収蔵品を購入する場合もあるが、寄贈される場合も少なくない。このような寄贈品(現物寄付)に係る会計上の取扱いが、2024年制定の公益法人会計基準(2025年4月1日以降に開始する事業年度から適用)において明確化された(運用指針69-72)。
寄贈の場合には、現物寄付として、寄贈品の「公正な評価額」により収益(受贈益など)を認識し、その「公正な評価額」により資産の貸借対照表価額が決定される。「公正な評価額」は、いわゆる時価であり、一般に市場で成立している価額をいう。このような現行の会計処理は、企業会計においても規定されているものである(「企業会計原則」第三・五・F)。
公正な評価額が付された寄贈品は貸借対照表に資産として計上されるとともに、財産目録に、寄贈品の名称、数量、使用目的などが表示され、貸借対照表価額と同一の価額が記載されることとなっている。
一方で、公正な評価額を付することができない場合には、会計上の取扱いの対象外となっている。多くの博物館等の収蔵品は金銭的価値を測定できない、すなわち公正な評価額がゼロであることが多いのが現実であり、このため、それらの寄贈品が博物館等のミッション遂行にとってどれだけ重要であっても、貸借対照表にも財産目録にもその情報は記載されない。
今回の新公益法人会計基準においても、財産目録は財務諸表の範囲には含まれないが、貸借対照表と関連付けて考えられ、貸借対照表項目の内訳明細表としての位置付けとなっている。したがって、貸借対照表に計上されない寄贈品が財産目録に記載されないのは当然のことであろう。
仮に、財産目録に記載する情報は、博物館等のミッション遂行にとって重要な役割を果たしている収蔵品等の財産に係る物量情報(非財務情報)と捉え、貸借対照表には計上されない寄贈品であっても財産目録に記載する余地があるのであれば、財産目録において博物館等の事業活動に用いられている収蔵品の情報を開示し、利害関係者の意思決定をサポートすることができると考えられる。
また、非財務情報である寄贈品に関する物量情報等を財産目録で開示することは、財務情報である財務諸表と合わせて、寄贈者に対する受託責任の履行状況を説明する役割を果たすことにもつながるであろう。
日本大学経済学部教授。専門領域は非営利会計・税務。博士(経営学)。公益法人会計検定試験副委員長、神奈川県第三セクター等改革推進会議会長。著書に『非営利法人の税務論点』(編著、中央経済社、2022年)、『非営利組織体の会計』(共著、中央経済社、2013年)、『会計学と人類学のトランスフォーマティブ研究』(共著、清水弘文堂書房、2021年)ほか、論文等多数。
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