公益法人会計と財務規律の行方

(ふじい・まこと 法政大学経営学部教授・(公社)非営利法人研究学会理事)
公益法人制度改革の一環として、財務規律の柔軟化・明確化を謳い、収支相償原則は中期的収支均衡へと改正された。我が国において、何かしらの規制を行う場合、当初は厳しい内容とし、その厳しさが被規制側の活動の制約となることが指摘されるようになると、規制を緩めるということが往々にして行われる。これは、文化や慣習、あるいは、国民性に起因するのかもしれないが、成文法系の制度を採っていることによるのかもしれない。
会計学的観点から興味深いのは、収支相償も中期的収支均衡も、収支に着目しているという点である。会計学におけるフロー概念には収支と損益の2 つがあるが、公益法人の財務規律においては、損益よりも収支が重視されている。一方、今般の改革に伴い、公益法人会計基準も改正され、従前の正味財産増減計算書は活動計算書へと名称変更され、その中身も大きく変化した。その結果、わかりやすさの向上を目的として、企業会計の損益計算書により接近したものとなった。このことは、公益法人の財務規律や会計情報における矛盾点が顕在化したものと見ることができる。
収支相償とは、公益目的事業に係る「収入」が適正な「費用」を超えないと見込まれることを求める改正前認定法5条6号と、公益法人はその公益目的事業を行うに当たり、当該公益目的事業の実施に要する適正な「費用」を償う額を超える「収入」を得てはならないと定める同14条を内容とする。これらの規定からも、文言上、損益と収支が混在していることが見て取れるが、それ以上に気になるのは、収入(収益)と費用(支出)のいずれが先なのかという疑問である。この疑問は、財政学における量出制入(出を量って入を制する)の考え方に通底する。ここで考えるべきは、入と出のいずれが先かということである。国や地方自治体のようなパブリックセクターは、出が先に量られて入を制するため、そこには税が不可避となる。一方、公益法人などのプライベートセクターは、どうであろうか。
期間の長短を除けば、収支相償と収支均衡は大きく意味が異なる。収支相償とは、支出が先で収入が後ということが含意された用語である。しかし、収支均衡という用語からは、獲得した収入の範囲内で身の丈に合った活動をすることを求めるとも解されうるため、収支の前後関係は曖昧になる。
かくして、公益法人を取り巻く会計の現状は、収支と損益のいずれが重視されるのかという問題に加え、入出のいずれが重視されるのかという疑問を我々に投げかけている。
博士(経営学)。税務会計研究学会理事。専門は税務会計論、非営利組織会計論。青山学院大学大学院経営学研究科博士後期課程標準年限修了、横浜国立大学大学院国際社会科学府博士課程後期修了。日本大学商学部専任講師、同准教授、同教授を経て現職。著書に『デジタル社会の会計と法人課税』(編著、中央経済社)、他論文等多数。
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