【解説】改正一般法人法施行規則における 実務上の留意点 ~内部統制に与える影響~

熊谷則一
(くまがい・のりかず 弁護士)
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    • 内部統制 監事 監査
  •  対 象 
    • 公益法人・一般法人

5月1日に施行された一般法人法施行規則。改正で監事監査はどう変わるのか?事務局に必要な対応は?施行日を迎えての緊急解説。


 はじめに

 一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「一般法人法」という。)は、平成26年6月20日に成立し、同月27日に交付された「会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(以下「会社法改正整備法」という。)によって一部が改正された。この改正一般法人法は、改正会社法が施行された平成27年5月1日と同日から施行された。
 改正一般法人法では、例えば、会計監査人の選任・解任等の議案の内容は監事が決定すること(改正後の一般法人法73条1項)や、従前の「外部役員等(外部理事、外部監事及び会計監査人)」という表現がなくなり、定義も変更された上で「非業務執行理事等」という表現が新たに規定されること等の変更がなされている。
 他方、会社法改正に合わせて、「会社法施行規則等の一部を改正する省令」が平成27年2月6日に公布され、この中で、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律施行規則(以下「一般法人法施行規則」という。)の一部改正が行われた。改正一般法人法施行規則も、平成27年5月1日から施行されている。
 一般法人法施行規則の改正は、一般法人法の改正に伴うものであって、多くの改正事項は、一般法人法の新たな規定と平仄を合わせるものである。しかし、内部統制に関する規律については、一般法人法としての改正はなされなかったものの、一般法人法施行規則の中で実質的な改正がなされている部分があるので、注意が必要である。これは、会社法改正にあたって法制審議会から法務大臣に答申された「会社法制の見直しに関する要綱」において、「監査を支える体制や監査役による使用人からの情報収集に関する体制に係る規定の充実・具体化を図る」こととされていることを受けて、会社法施行規則の中で内部統制に関する規律が変更されることを受けて、一般法人法施行規則でも同様の規律を設けることが必要であると考えられたことによるものである。
 以下、改正一般法人法施行規則の中で新たに設けられた内部統制に関する規律について解説する。

 Ⅰ 一般法人法施行規則14条の改正

1 理事会設置一般社団法人・一般財団法人の内部統制体制について

 理事会設置一般社団法人及び一般財団法人は、「理事の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他一般社団法人・一般財団法人の業務の執行の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備」については、理事会で決定しなければならないとされている(一般法人法90条4項5号、197条)。一般法人法90条4項5号が定める体制がいわゆる「内部統制体制」である。内部統制体制の重要性に鑑み、その決定は理事会の専決事項とされていて、特定の理事に対してその意思決定を委ねることが禁じられている。また、大規模一般社団法人である理事会設置一般社団法人と大規模一般財団法人においては、理事会で内部統制体制についての意思決定を行うことが必須とされている(一般法人法90条5項、197条)。
 内部統制体制として決定することが必要な内容は、一般法人法施行規則14条に規律されている(一般財団法人の場合には、一般法人法施行規則62条が同14条を準用している)。

2 監事の職務を補助すべき使用人に関すること

 一般法人法施行規則14条では、改正以前から、監事がその職務を補助すべき使用人を置くことを求めた場合における当該使用人に関する事項(一般法人法施行規則14条5号)及び当該使用人の理事からの独立性に関する事項(一般法人法施行規則14条6号)を内部統制体制において決定しなければならない事項として定めている。これらに加え、改正された一般法人法施行規則では、「監事の第5号の使用人に対する指示の実効性の確保に関する事項」も内部統制体制において決定しなければならない事項とされた(一般法人法施行規則15条7号)。
 「監事の職務を補助すべき使用人に対する指示の実効性の確保に関する事項」とは、例えば、①当該使用人を監事専属とするのか他の部署と兼務させるのか、②当該使用人の異動についての監事の同意の要否、③理事の当該使用人に対する指揮命令権の有無、④当該使用人の懲戒についての監事の関与等が考えられる(株式会社における監査役の補助使用人に対する指示の実効性の確保に関する事項につき、「会社法施行規則等の一部を改正する省令の解説⑴」7ページ〔商事法務2060号〕)。
 これらの事項は、「監事がその職務を補助すべき使用人を置くことを求めた場合における当該使用人に関する事項」(一般法人法施行規則14条5号)や「当該使用人の理事からの独立性に関する事項」(一般法人法施行規則14条6号)と共有の内容になることも多いと想定される。もともと、当該使用人に対する指示の実効性に関すること(一般法人法施行規則14条7号)は、当該使用人に関する事項(一般法人法施行規則14条5号)でもあり、また、理事からの独立性(一般法人法施行規則14条6号)が確保されれば、当該使用人に対する指示の実効性(一般法人法施行規則14条7号)も確保されるという関係にあり、それぞれが関連している。ただ、監査を支える体制に係る規定の充実・具体化を図るという観点から今回の規則の改正が行われているので、「監事の職務を補助すべき使用人に対する指示の実効性の確保に関する事項」を条文上独立させて規定することが適切であると考えられ、内部統制体制として決定すべき事項に掲げられた。

3 監事への報告をした者に関すること

 一般法人法施行規則14条8号は、「理事及び使用人が監事に報告をするための体制その他の監事への報告に関する体制」を内部統制体制として決定すべき事項として定めていて、これは改正前と同じ規律である(改正前は一般法人法施行規則14条7号であった。)。
 しかし、このような体制を構築しても、監事に報告した者が、当該報告をしたことを理由に人事その他で不利な取扱いを受けるようであれば、結局はこのような報告体制は有効に機能しなくなる。
 そこで、一般法人法施行規則の改正により、「前号の報告をした者が当該報告をしたことを理由として不利な取扱いを受けないことを確保するための体制」(一般法人法施行規則14条9号)が内部統制体制として決定すべき事項に追加された。
 「前号の報告をした者が当該報告をしたことを理由として不利な取扱いを受けないことを確保するための体制」(一般法人法施行規則14条9号)とは、例えば、監事への報告を理由とする解雇等不利益な処分を禁止することのほか、当該理事会設置一般社団法人及び一般財団法人の理事・職員から監事への報告が、直接に、または当該理事・職員の人事権を有していない者を介して、当該監事に対してなされる体制を定めることが考えられる(株式会社における報告者が不利な取扱いをうけないことを確保するための体制につき、「会社法施行規則等の一部を改正する省令の解説⑴」7ページ〔商事法務2060号〕)。

4 監事の費用償還等に関すること

 一般法人法106条は、監事が職務の執行について費用の前払いの請求や支出した費用、負担した債務の弁済の償還の請求等を行った場合には、一般社団法人・一般財団法人は当該請求を拒むことができないのが原則であることを定めている。
 このような費用・債務の処理に係る方針をあらかじめ定めておくことは、当該費用等に対する監事の予測可能性を高め、監事の職務の円滑な遂行に寄与すると考えられる。そこで、一般法人法施行規則の改正により、「監事の職務の執行について生ずる費用の前払又は償還の手続その他の当該職務の執行について生ずる費用又は債務の処理に係る方針に関する事項」(一般法人法施行規則14条10号)が内部統制体制として決定すべき事項に追加された。ここでは、監事の職務の執行について生ずる費用の前払又は償還の手続について決定すること等が考えられる(株式会社における監査役の費用償還等に関する事項につき、「会社法施行規則等の一部を改正する省令の解説⑴」8ページ〔商事法務2060号〕)。

 Ⅱ 一般法人法施行規則13条の改正

 理事会設置一般社団法人以外の一般社団法人の内部統制体制として定めるべき事項については、一般社団法人法施行規則13条が定めている。同13条4項は理事会非設置であって、監事を設置している一般社団法人についての内部統制体制として定めるべき事項を規律している。ここでも、一般社団法人法施行規則14条同様、「監事の前号の使用人(監事の職務を補助すべき使用人)に対する指示の実効性の確保に関する事項」(一般法人法施行規則13条4項3号)、「前号の報告(監事への報告)をした者が当該報告をしたことを理由として不利な取扱いを受けないことを確保するための体制」(一般法人法施行規則13条4項5号)、及び「監事の職務の執行について生ずる費用の前払又は償還の手続その他の当該職務の執行について生ずる費用又は債務の処理に係る方針に関する事項」(一般法人法施行規則13条4項6号)を内部統制体制として定めるべき事項として追加する改正がなされた。

 Ⅲ 清算法人の内部統制体制に関する一般法人法施行規則66条・67条の改正

 今回の一般法人法施行規則の改正では、清算法人の内部統制体制に関する一般法人法施行規則66条・67条についても、本稿Ⅰの2・3と同様の改正がなされている。内部統制体制についての決定を行う清算法人の場合には、新たに追加され、具体化された事項を意識した決定を行う必要がある。

編集子雑記帳
 
◆先月、「世界の子どもたちにワクチンを届けよう」と謳いペットボトルのふたのリサイクルを進める某非営利法人が、その売却益を2013年9月以降、ワクチン代には使わず、連携する障害者施設などに寄附していた、という報道がありました。
◆「寄附」のイメージとしてよく聞くのが、道徳教育でベルマークを集めることなどで学んだ「無償の慈善活動」というものです。確かに、当法人の行為は信頼を裏切る行為であり、決して許されません。ただ、障害者施設への寄附は「リサイクルの仕組みづくり」に充てられており職員の待遇改善も進めていたとも報じられています。慈善活動を持続していくためには、運営費もかかるということもまた事実です。
◆内閣府は3月に『平成26年度 市民の社会貢献に関する実態
                           

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