【解説】収支予算書及びキャッシュ・フロー計算書を巡る一考察

源田佳史
(げんだ・よしふみ 公認会計士・税理士)
  • CATEGORY
    • 予算管理、キャッシュ・フロー計算書
  •  対 象 
    • 公益法人・一般法人

平成20 年基準が適用された後においても資金収支ベースの収支予算書を作成する法人は少なくない。新制度下におけるあるべき予算管理について考察する。


Ⅰ 収支予算書を巡る混乱

 新制度への移行期間終了から2年近く経過しているにもかかわらず、従前の予算主義に基づく考え方(資金収支予算書の活用)が未だに公益法人あるいは一般法人の管理運営において、残っていることが、筆者が関係している法人でも見受けられる。この理由としては、以前の主務官庁による指導監督のための平成16年改正会計基準(以下「16年基準」という。)と、法人の自主的な管理に基づき外部に対して情報開示するための平成20年会計基準(以下「20年基準」という。)を十分に理解されていない可能性が挙げられる。また、法律上では、予算は法人の最高意思決定機関である社員総会や評議員会による決議ではなく、業務執行機関である理事会による決定、すなわち法人管理のためのガバナンスに関わる事項であるということが十分に理解されていないということが挙げられる。
 法律にいうところの損益計算書ベースの予算書では、投資活動支出や財務活動に関わる予算が表示できないことを理由として、理事会等での参考資料として旧来の資金収支ベースでの予算書を作成しているケースも見受けられる。このような混乱は何が原因であるか、本稿で考察する。

Ⅱ 資金の範囲による表示の違い

 旧来の収支予算書並びに収支計算書は、ある意味、その定義にかなりの差があった「資金」という概念に基づくものであった。資金のうち、かなり狭義な現金預金を資金の範囲とする場合であっても、預金の期間ということでは短期(1年以内)の預金を資金の範囲とするという意味では不徹底なものであったといえよう。さらに資金の範囲に未収金や未払金等を含めた結果、滞留未収金が存在する法人においては、収支計算書がそのまま法人の資金繰りを示すものではない(収支計算書の財務活動収支の部に表示されない)ケースも散見された。
 逆に、キャッシュ・フロー計算書は資金の範囲を「現金及び現金同等物」とかなり厳密に定めたことにより、ある意味でキャッシュ・フロー計算書と同様の資金の範囲の収支予算書があるならば、資金収支型の収支予算書を必要とする場面はほとんどないように思われる。それではなぜ、キャッシュ・フロー計算書様式の収支予算書がないのであろうか。
 ひとつには、16年基準において、キャッシュ・フロー計算書は、経常収益の合計額が10億円を超える大規模な法人(又は前事業年度の資産の合計額が100億円以上若しくは負債の合計額が50億円以上)に対してのみ、その作成が求められたこと、20年基準においてはその適用を求める基準がさらに法定監査が必要な大規模法人(負債の額が200億円以上、但し、公益法人の場合は、収益の額、費用及び損失の額が1,000億円以上又は負債の額が50億円以上)に変わったことにより、通常の公益・一般法人にとって極めて使い勝手の悪い財務諸表であるという誤解が生じてしまったことが一因であると考える。
 上記により明らかなように、キャッシュ・フロー計算書も所詮収支計算書の一形態にすぎないにも関わらず、あたかも難しいことを法人に求めているような印象を与えたことがあるように思われる。

Ⅲ 現預金型収支予算書とキャッシュ・フロー計算書は同じ

 まず、キャッシュ・フロー計算書のうち間接法によるキャッシュ・フロー計算書は貸借対照表、損益計算書(正味財産増減計算書)から事後的に作成されるものである。したがって、予算書として使うためには、企業会計の場合と同様、経営分析の手法(例えば、資産や負債の回転期間を用いて、予定貸借対照表を作成し、それからキャッシュ・フロー計算書を作成する方法)に依らざるを得ず、その場合、実際のキャッシュ・フロー計算書と予算実績比較を行うにあたり、かなり難しい前提条件を設定しなければならないなどの問題点が発生する。
 これに対して、直接法によるキャッシュ・フロー計算書を作成する法人においては、仕訳段階からどの科目について、キャッシュ・フロー計算書に反映させるかの設定が必要となる。
 企業間に勘定科目間の差異が少ない企業会計の場合はともかくとして、法人間に事業内容の差異が大きく、かつ、形態別分類による科目によっては十分に法人の経営管理が行えないような公益・一般法人においては、形態別分類と同時に目的別分類による経営管理も同時に行わなければならないケースが多くみられる。このような場合、科目の初期設定や部門管理の初期設定に極めて大きな手間がかかることが予想される。企業会計においてすら、キャッシュ・フロー計算書の作成方法として間接法が用いられることが多いことから、直接法に基づくキャッシュ・フロー計算書をソフト的に作ることは容易ではないと考えられるが、それでも直接法を使おうとする以上、コストを上回るメリットが得られるようなインセンティブが必要である。このようなインセンティブとして、予算統制が可能、すなわち日々の会計処理に基づいて、期中のどの時点においても、キャッシュ・フロー計算書が暫定的に入手可能であるということは極めて魅力的ではあると考えられる。
 キャッシュ・フロー計算書について、現在の直接法による作成方法と間接法による作成方法は一見して全く異なるように考えられるが、実はキャッシュ・フロー計算書の意味合いは事業活動キャッシュ・フローと投資活動キャッシュ・フロー、そして財務活動キャッシュ・フローを明確に区分することであり、それぞれの内容の表示に決定的な重要性があるわけではない。したがって、予算に損益計算ベースの予算書を使うとしても、それを期末のキャッシュ・フロー計算書作成のための調整項目を加味したものを参考として作成する(未収・未払・前払・未払の経過勘定項目や減価償却などの非現金支出の損益項目を調整)ならば、損益計算ベースの予算書であっても、限りなく資金収支計算(現預金型の)に合致するものとなる。さらに、損益計算ベースの予算書の問題点とされる投資活動に関する予算化についても、参考事項として、理事会等における意思決定過程においての説明があれば、期末のキャッシュ・フロー計算書との対応関係が明確化でき、旧来の収支予算書とその意義において同様の予算統制が可能となると考えられる。

Ⅳ 設例によるキャッシュ・フロー計算書の説明(43頁設例参照)

 43頁図1及び図2において示したようにX2年度末の貸借対照表と前年度末であるX1年度末の貸借対照表の増減項目の算定を行った上で、正味財産増減計算書の当期増減額(図3)における減価償却費(本設例の場合80)のような非資金項目を収入金額に含めるため加算するとともに、その他の資産負債増減項目を加減算することによりキャッシュ・フローを算出したものが図4、図5のキャッシュ・フロー計算書である。 設例を見て分かるように、間接法(図4)も直接法(図5)も、その結果において変わりはない。よく直接法が従前の収支計算書と形式的に類似していることを理由として、直接法が優れているという見解が存在するがキャッシュ・フロー計算書の価値はそこにはなく、キャッシュ・フローを事業活動キャッシュ・フロー、投資活動キャッシュ・フロー、財務活動キャッシュ・フローに区分して考えることにより、法人の活動を支えるキャッシュ・フローが適切であるかどうかの検討材料を与えることにこそ意味がある。
 その意味で、間接法による事業活動キャッシュ・フロー(図4)は当期正味財産増減額に非資金支出項目である減価償却費を加算し、さらに投資活動に関わる資産負債増減や財務活動に関わる資産負債増減以外の増減額をキャッシュ・フローの増加あるいは減少要因に区分して加減算するものである。
 例えば、その他の流動資産の10の増加(図1)は、費用化はしていないため資産計上されているが、現金同等物はすでに支出されてしまっているからキャッシュ・フロー計算上は控除項目となる(図4)。逆に、前払金の減少(図1)は当期において費用として正味財産計算上は当期に計上されている10がすでに支払済みであることから、キャッシュ・フロー計算上は加算項目(図4)として処理される。未払金40の増加(図2)は正味財産計算上は当期に計上されている40が実際の支出は次期以降に行われることからキャッシュ・フロー上は加算項目(図4)となることを意味する。



 このように説明していくとキャッシュ・フロー計算書は決して難しい財務諸表ではないことが分かると思われる。但し、間接法によるキャッシュ・フロー計算書は事後的に作成され、期中において作成することが困難ではないかという意見もあるだろう。しかしキャッシュ・フロー計算書の作成には必ず貸借対照表項目の増減を加味することが必要である。例えば直接法による場合であっては、収支計算書時代と同様に1取引2仕訳のような面倒な作業が必要である。しかし、直接法によるキャッシュ・フロー計算書の作成において、できる限り現金主義の仕訳と発生主義の仕訳を同一とすることにより、いわゆる期中は現金主義で期末のみ前払未払等の経過勘定項目や棚卸資産や事業未収金、事業未払金等の営業債権債務の認識を行うことも、規模の小さな公益・一般法人では可能であると考えられる。さらに規模の大きな法人においても、場合によっては正味財産増減計算書に棚卸資産増減や事業債権債務増減という項目を設定することにより、表面的には現金主義に基づく仕訳を行いながらも、実質的に発生主義に基づく会計を行うことが可能となろう。

Ⅴ まとめ

 20年基準において、予算はすでに主務官庁会計における予算準拠主義から、企業会計における法人活動の予算統制のように変革されているのである。したがって、収支予算書作成においても、法人のガバナンスに資するための工夫の余地は認められると考えられる。その意味で、かつての収支計算書と同様に、投資活動並びに財務活動についても予算統制を行う意味は少なくなく、損益計算ベースの予算書に工夫を加えることによって法人全体の資金繰りを予算化する必要性は大きいと考えられる。

[su_box title="執筆者Profile" style="soft" box_color="#4e4949" radius="2"]源田佳史(げんだ・よしふみ)
公認会計士・税理士。同志社大学経済学部卒。等松青木監査法人を経て、源田公認会計士事務所設立。元日本公認会計士協会非営利法人委員会公益法人専門部会専門委員。現在、農林水産省、総務省、経済産業省所管公益法人等の監査に従事。[/su_box]

                           

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