「満期保有目的の債券」の買換え に関わるペナルティ措置の適否

(さいとう・しんや 横浜国立大学大学院教授 / (公社)非営利法人研究学会会長)
満期保有目的の債券は、満期まで保有することを目的としていると認められる社債等を指す。その評価は原則として原価評価であり、額面金額と発行価額との間に差額がある場合で、それが金利調整であると認められるときは、償却原価法が適用される。こうした処理は、満期まで保有することによる利息の受取りと元本の回収を目的としているからである。売却を予定していないため、たとえ時価が算定できるとしても売却を前提として時価評価し、その評価差額をその事業年度の損益に含めることはしない。
しかし、満期保有目的の債券を満期前に売却や保有目的の変更を行った場合には、保有目的そのものが誤りであるとして、ペナルティ措置がとられる。
日本公認会計士協会公表の「公益法人会計基準に関する実務指針」(2019年3 月最終改正、Q34)では、満期保有目的の債券を、満期前に売却等を行うことは認められないとしており、その一部でも売却等がなされた場合には、満期保有目的の債券に分類されたすべての債券を売買目的有価証券またはその他有価証券に振り替えることを求めている。さらにその売却等を行った事業年度と翌事業年度においては、満期保有目的の債券への分類が禁止される。ただし、一定の場合にはその売却等があった場合でも、売買目的有価証券等への振替えは求められない。一定の場合とは、債券の発行者の信用状態の著しい悪化や、税法上の優遇措置の廃止、法令の改正・規制の廃止、監督官庁の規制・指導、自己資本比率等を算定する上で使用するリスクウェイトの変更、その他予期できなかった売却等で保有者に起因しない事象の発生である。これらの一連の措置はすべて企業会計上の取扱いの写しにほかならない。
そのペナルティ措置について、企業会計上は、利益操作の排除等の理由から理解しうる。しかし非営利法人、特に公益社団・財団法人にあっては、基本財産として満期保有目的で債券を有することは広く行われているものの、環境制約の変化により、現有の債券よりもより安全有利な債券が存在するならば、買換えを行い、より多くの活動資金を得ようとするのは当然の行為である。こうした状況下での満期保有目的の債券の買換えについては、企業の場合と同様に捉えるべきではないと考えられる。したがって公益法人会計基準を適用するにあたり、公益性のある非営利法人の性質を理解し、公益活動等を阻害するようなペナルティ措置は避けるべきであろう。
一橋大学大学院商学研究科博士後期課程単位修得。税務会計研究学会副会長、日本学術会議連携会員、(公財)財務会計基準機構理事。元神奈川県公益認定等審議会会長、元内閣府公益認定等委員会参与。著書に『税効果会計論』(森山書店、1999年)、『現代の会計』(放送大学教育振興会、2020年)、編著『減損会計の税務論点』(中央経済社、2007年)ほか。
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