第2回 石川 広紀 先生

算数少年が簿記に出会い、税理士の道へ
━━━まずは先生が税理士を志されたきっかけを教えていただけますか?
大学生の時ですね。経営学部の中でも理系寄りの学科にいて、金融工学や統計学などを学んでいたのですが、あまり興味が持てずにいました。そんな中で唯一、「面白い!」とのめり込んだのが、おまけ的に履修した「簿記」の授業だったんです。元々、小学生の頃からそろばん教室に通っていて、算数が大好きでした。数字がピタッと合う感覚が肌に合っていたんでしょうね。不思議なご縁なんですが、当時通っていた「そろばん教室」が所属する公益法人さんが、今は私のお客様なんですよ。簿記に出会って「この分野で生きていこう」と決意し、大学在学中から専門学校に通って勉強を始めました。卒業後は就職せずに受験勉強に専念し、4 年ほどで資格を取得して会計事務所に入所しました。

共感した公益の活動理念
━━━会計事務所での勤務時代に、公益法人と出会われたとお聞きしています。
26歳の頃、当時勤めていた事務所に、1 件だけ公益法人の関与先がありました。担当していた上司が入院してしまい、急遽、私が引き継ぐことになったのが最初の出会いです。最初は衝撃を受けましたね。企業会計とは全く考え方が違うので、正直さっぱり分からない(笑)。でも、利益追求ではなく「社会に貢献したい」という純粋な活動理念に触れ、すごく共感したんです。「これは面白い、自分に合っている」と直感しました。
その時、お客様から「私たちはこういう雑誌を読んで勉強しているんです」と渡されたのが、全国公益の『非営利法人』と『月刊公益法人』でした。事務所としてすぐに入会し、私もその雑誌を読み込んで猛勉強しました。それが全国公益とのご縁の始まりです。

「顧客ゼロ」からの独立
━━━その後、35歳で独立されています。当初ご苦労もあったそうですが。
2010年、ちょうど公益法人制度改革の真っ只中に「石川広紀税理士事務所」を開業しました。以前から「35歳で独立する」と決めていまして、35歳の誕生日に当時の所長に独立のお願いに行ったんです。そこから準備をして開業したのですが、まさかの「顧客ゼロ」からのスタートです(笑)。
開業当時は時間だけはあったので、自分で公益・一般法人リストを作ってDMを送り、無料セミナーを企画して集客し、終わったら「何かお困りごとはありませんか」と営業に回る。その繰り返しで少しずつ関与先を増やしていきました。
実は当時、営業の一環で日本相撲協会に電話したこともあるんですよ。「僕、大相撲が大好きなんで、ぜひ公益法人への移行支援をやらせてください!」って(笑)。残念ではありますが丁重にお断りされました。それはそうですよね……。でも当時はとにかく仕事につなげようと必死でしたね。
━━━弊社との関わりも、独立当初から深かったのですか?
そうですね。実は開業した直後、前の事務所を退所したことで雑誌が読めなくなってしまった期間があったんです。それで困ってしまって、全国公益の大阪支社に電話をして「独立手続中の空白期間があるんですが、どうしても読みたいんです」と直談判しました。そうしたら、なんと無料で送ってくださったんですよ。
なんて親切な会社なんだと感動したのを覚えています。その時の恩義はずっと忘れていません。

「3行」で挫折した原稿と、セミナーのオファー
━━━今でこそ全国公益の看板講師ですが、どのようなきっかけで講師になられたのでしょうか。
そうなんです。独立当初、全国公益の担当者の方に「僕にも研修会で喋らせてくれませんか」と売り込みに行ったことがあるんです。そうしたら「まずは執筆実績を作ってください」と言われまして。当時、私の関与先にその事業の性質上、公益法人への移行は難しいという事例がありました。しかし分析すると、主として行っていない複数の事業に公益性があることがわかり、これらに内包した形で公益目的事業と位置付け、見事に認定を受けることができました。「これはすごい事例だ!」と思って意気揚々と記事を書き始めたんですが……なんと3 行で筆が止まってしまいまして(笑)。締め切りやお尻を叩いてくれる人がいないと書けないタイプで、結局挫折してしまったんです。それで講師への道は一度諦めました。
ところがその後、全国公益の宮内社長と当時の担当者がわざわざ私の事務所まで来てくださって、「セミナーをお願いできませんか」と依頼をいただいたんです。私が自力で開催していたセミナーの実績をホームページなどで見てくださっていたそうで、あの時は本当に感動しましたね。

「塾講師」の経験が生きるセミナー術
━━━先生のセミナーは「分かりやすい」と評判ですが、その秘訣はどこにあるのでしょうか?
大学生の頃、小学生向けの中学受験塾で「チューター(担任)」のアルバイトをしていたんです。相手は小学生ですから、難しい言葉を使っても伝わりません。どうやったら興味を持って聞いてもらえるか、声の強弱や分かりやすい言葉選びを毎週工夫していました。大人が相手のセミナーでも、実は同じことが言えると思うんです。
法律や会計基準のセミナーならなおさらです。だからこそ、噛み砕いて、抑揚をつけて話す。当時の経験が、今のスタイルの基礎になっています。
余談ですが、人前で話すには集中力が必要です。そのため、セミナーに登壇する当日は午前中に準備を終え、お昼を抜いて臨むことが私のルーティンなんです。

━━━大の相撲ファンと伺いました。
大好きですね! 特に名古屋場所が行われる7 月は、公益法人さんの決算・総会等が終わって一息つける時期なので、毎年楽しみにしています。きっかけは、私の顧問先であるお寺が、名古屋場所の際に「荒汐部屋」の宿舎になったことなんです。力士と交流したり、ちゃんこ鍋を一緒に食べたりする中で、さらに熱が入りました。今は若元春関を応援しています。幟を出したり、千秋楽パーティーにも参加したりしていますよ。
━━━楽しみ方も独特だとか?
仕事柄、車移動が多いので、夕方はラジオで相撲中継を聞いています。「右四つになって……」という実況を聞いて頭の中で取組を想像し、帰宅後に録画を見て「やっぱりそうだった!」と答え合わせをするのが至福の時間です(笑)。

「現場主義」が生む説得力
━━━現在、東海地方を中心に多くの顧問を務められていますが、相談対応で心がけていることはありますか?
私は今でも「プレイングマネージャー」でありたいと思っていて、月に約50件の関与先へ訪問しています。土日祝日も関係なく、現場を走り回っていますよ。観光関係や会館の管理など、土日が稼働日の法人さんも多いですからね。現場に行くと、それぞれのリアルな悩みや「生の声」が聞こえてきます。
机上で法令やガイドラインを読むだけでは分からない、現場の悩みに対するアンサーをセミナーや記事に反映させること。これが私の最大の強みであり、こだわりです。相談を受ける際は、単に「手引きにはこう書いてあります」と答えるのではなく、その法人さんの実情に合わせた解決策を一緒に考えるようにしています。
━━━セミナーでよく使われる「我々」という言葉にも、その想いが表れていますね。
そうですね。公益法人の皆さんを「仲間」だと思っていますから。私自身、この業界に育ててもらったという感謝がありますし、一緒に業界を盛り上げていきたいという想いを込めて「我々」という言葉を使っています。

『月刊公益』の「いちファン」として
━━━石川先生は本誌の編集委員としてもご活躍いただいています。最後に読者の皆様へメッセージをお願いします。
独立してから全国公益に送っていただいた分も含めて、この15年分の『月刊公益』のバックナンバーを1 冊も捨てずに事務所の本棚に並べているんです。毎月届くのが楽しみで、封を開ける時のワクワク感は、小学生の頃に父が買ってきてくれる『小学一年生』などを待っていた時の気持ちと同じです。だから私は、編集委員というよりも「いちファン」代表として関わっている感覚なんです(笑)。
読者の皆さんが知りたい情報をワクワクするような形でお届けしたいと考えています。公益法人制度や会計基準の変更など、変化の大きい時期ですが、私も「我々」の一員として、ファンの1 人として、皆さんと一緒に歩んでいきたいと思っています。
━━━本日はありがとうございました。
税理士。CFP。本誌編集委員。全国公益法人協会相談室顧問。平成22年8 月、名古屋にて石川広紀税理士事務所を設立。多くの公益法人や社会福祉法人の顧問を務める傍ら講演・執筆を行う。
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