内閣府が解説!新しい公益法人制度の実務と公益信託
新公益信託制度の始動
―公益法人による活用の可能性と準備のポイント―

細川顕文
(ほそかわ・よしふみ 内閣府公益認定等委員会事務局)

 

Summary

令和8年4月施行の新公益信託制度について、公益法人による活用の可能性と準備のポイントを解説。約110年ぶりの抜本改革となる新制度では、従来実質的に信託銀行等に限られていた「受託者」に公益法人等も就任可能となり、さらに不動産など信託財産や事務の範囲が拡大され、認可監督基準も公益法人制度と一元化された。公益法人は、これまで培ったガバナンスや法令知識を活かし、財産を管理する「受託者」や適正な運営を監視する「信託管理人」として関与することが期待される。

 

Ⅰ 新公益信託制度について

1 はじめに

 令和8年4月施行の「公益信託に関する法律」(令和6年第30号。以下「公益信託法」という。)に当たり、公益法人が新公益信託制度をどのように活用する可能性があり、準備としては何が考えられるのか、現時点で想定されることを記載する。なお、本稿で示されている内容や意見は執筆時点(令和8年2月)現在のものであり、かつ専ら筆者個人に属するものであるため、内閣府の公式見解を示すものではない。

 

2 公益法人制度改革との関連性

 令和6年5月に公布された公益信託法は、公益信託制度の抜本改正として大正11年(1922年)に旧信託法(大正11年法律第62号)が制定されて以来、約110年ぶりの改正であった【図表1】。改正に当たっては、①それまでの主務官庁制を廃止し、同じく民間公益活動の枠組みの一つである公益法人制度と共通の行政庁による認可監督制とし、②新公益信託法はその認可の基準や求められるガバナンス等を内容とすることとされた。この①の観点については、公益法人制度と公益信託制度とは“車の両輪”であるということが強調され、新公益信託法と同じタイミングで「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の一部を改正する法律(令和6年法律第29号)」も国会において審議され可決・成立している(注1)
 令和6年の公益法人制度改正は、財務規律の柔軟化・明確化や行政手続の簡素化・合理化等を目的としたものであったが、新公益信託制度はこの改正後の公益法人制度と整合的な制度として、行政庁による認可(認定)・財務規律・行政庁や委員会の権限等様々な側面において公益法人制度と同様の規定が設けられている。

 

【図表1】公益信託制度の変遷

出典:内閣府「新しい時代の公益法人制度の在り方に関する有識者会議」

 

3 従来の公益信託制度との違い

 新しい公益信託制度は、従来の公益信託制度とは何が異なるのであろうか。その差異を大別すれば、以下の3点に集約される【図表2】

 

【図表2】新しい公益信託制度のポイント

 

受託者の範囲拡大で担い手が多様化

 第1に、受託者(担い手)の範囲が拡大したことである。既存の公益信託は旧制度下の許可審査基準や税法等の要件上その受託者の大多数が信託銀行であったところ、受託者の属性に左右されず公益信託として認可されれば税制優遇を受けられることとなったため、公益法人やNPO法人等に受託者の幅が広がった。

 

信託財産・信託事務の対象が拡大

 第2に、信託財産・信託事務の範囲が拡大したことである。こちらも旧制度下の許可審査基準や税法等の要件上、実質的に信託財産は金銭に、信託事務は奨学金の支給や助成に限られていたところ、第1と同様に信託財産が金銭以外の不動産や美術品等であっても税制優遇を受けられることとなり、また公益事務の範囲も益法人の公益目的事業と同様のものとなった(注2)

 

公益法人と認可・監督基準を一元化

 第3に、公益法人との認可監督の基準の一元化である。平成18年以前の公益法人制度と同様に旧制度下の公益信託は主務官庁による認可制であったところ、公益法人制度と整合的な制度とすることで、行政庁が内閣総理大臣または各都道府県知事となり、公益法人制度で培ったノウハウを活かした認可監督の制度となる。

 

Ⅱ 公益法人が公益信託に関与する可能性

1 公益法人が公益信託の受託者となる場合

 まず、公益信託という制度には「委託者」「受託者」「信託管理人」という存在が必須である。それぞれどういった立場・役割であるのか、【図表3】で簡潔にまとめている。
 受託者とは、公益(特定の者の利益ではなく、社会全体の利益)のために自らの財産を託したいという委託者の想いと財産とを受託して、「財産の管理又は処分その他の信託の目的の達成のために必要な行為をすべき義務を負う」(信託法(平成18年法律第108号)2条5項)者である。具体的には、公益信託事務(注3)(公益信託のために行われる信託事務全体を指す概念)の執行方針を定めた上で日々の事務を行い、事業計画や信託概況報告といった書類を定期的に行政庁に対して提出する義務がある。また、他者から信託された財産を扱うため、善管注意義務・分別管理義務(注4)・公益信託において発生した損失の填補(原状回復)義務といった信託法上の義務も負っている。
 公益信託の受託者となろうとする者は、公益信託事務を適正に処理するに当たって必要な「経理的基礎」「技術的能力」(公益信託法8条2号)を有していなければならない。上述の信託法上の義務を遵守しているかということに加えて、公益信託事務の処理方法や信託財産の状況といった情報が適正に開示される仕組みが整備されているか、公益信託の適正な運用を確保する仕組み(必要に応じた専門家等の関与等を含む)が整備されているか、といったことが必要である。
 以上を基に公益法人が公益信託の受託者となる場合について考えてみると、「経理的基礎」「技術的能力」については、公益法人は「公益目的事業を行うのに必要な経理的基礎及び技術的能力」を有することが認可基準となっている(認定法5条2号)。信託法上の義務等に鑑みれば、「経理的基礎」「技術的能力」という名称自体は同一であっても、それぞれにおいて求められる要素が必ずしも同じであるとは言えない。そのため、公益法人であっても公益信託事務を行うに当たって必要な「経理的基礎」「技術的能力」を備えているか否かが審査されることになるが、特に「技術的能力」については、公益法人として確立されているガバナンスの仕組みがあるということを以て、コンプライアンスという意味では「技術的能力」を有していると判断することを原則としている(「公益信託認可等に関する運用について(公益信託認可等ガイドライン)」令和7年12月内閣府公益認定等委員会・内閣府公益法人行政担当室(以下「ガイドライン」という。)第3章第1節第2の2⑴参照)。
 また、受託者という観点に限らず、公益信託として認可される基準は公益信託法8条各号に規定されているが、これらは認定法5条の公益法人としての認定基準とほぼ共通するものであり、公益法人として認定されていることは公益信託の各認可基準の審査に当たって少なからず考慮される(各認可基準を満たしているか判断するに当たっての合理的な参考材料となる)ことになるだろう。

 

【図表3】委託者・受託者・信託管理人

 

2 公益法人が公益信託の信託管理人となる場合

 信託管理人とは、委託者及び受託者からは独立した存在として、受託者が委託者の目的に従って公益信託事務を実施できているか、監視監督を行う者である。一般の信託においては、受益者(端的に言えば、信託によって発生する便益を受ける者)が存在するところ、公益信託は「受益者の定め〔中略〕のない信託」(公益信託法2条1項1号)であるため、受益者の代わりに信託管理人が受託者の監視監督を行うということになっている。主な権限としては、受託者が定めた公益信託事務の執行方針の承認や財務諸表・信託概況報告(公益信託の実績資料)の承認といった通常の公益信託事務に関する事項に加えて、受託者の選任・解任(注5)(委託者と合意の上で)や信託の変更(委託者及び受託者と合意の上で)といった公益信託の枠組みそのものに係る決定に関する権限も有している。
 公益信託の信託管理人となろうとする者は、受託者による公益信託事務の適正な処理のため、「監督をするのに必要な能力」(公益信託法8条3号)を有していなければならない。「監督をするのに必要な能力」というのは、受託者の属性や能力、公益信託の事務内容や規模に応じて程度が変わるものであるため、一概に「このような能力が必要である」と詳細に、具体的に言い切ることができるものではない。そのため、公益信託の認可に当たっては、公益信託の事務内容や規模に対して、受託者・信託管理人その他公益信託を構成する枠組みの全体が、適正な事務実施を図ることができる枠組みとなっているか、ガバナンスが枠組みの全体として確保できるかということを審査する。
 以上を基に公益法人が公益信託の信託管理人となる場合について考えてみると、前述のとおり公益法人として確立されているガバナンスの仕組みがあるということは非常に大きな要素であり、特に受託者自身のガバナンスに脆弱な観点があり得るような場合は、ガバナンス補完のための有力な信託管理人候補であると考えられる。その際には、公益法人制度と整合的な制度としている公益信託制度であるからこそ、公益法人としてこれまで培って来た公益認定法等の法令への知識や会計処理への経験等を遺憾なく発揮することができるとも言えよう。

 

Ⅲ 新公益信託制度活用に向けた準備・留意点

 受託者であれ信託管理人であれ、公益信託制度に何らかの形で関与したいと考えておられる公益法人の関係者の方々に対してお伝えできることとして、準備の第一段階としてはまず何よりもガイドラインや手引き等を用いて公益信託制度・公益信託法令を御理解いただくことであると考える。公益法人制度と整合的な制度というのは紛れもない事実であるが、公益法人制度と公益信託制度とには少なからず差異も存在する【図表4】(注6)。公益信託法令を読み込むに当たっては公益法人に関する法令を読み込まれた経験が活きるはずであり、公益法人制度や公益信託制度にこれまで関わってきていなかった者が委託者や受託者、信託管理人になる場合が十分想定されるところ、そのような場合はこれまでの知見を活かして積極的に御助言等いただければと考えている。
 また、制度改正の趣旨に立ち返れば、政府全体として『公益の増進及び活力ある社会の実現』が公益信託法改正の根本的な目的(公益信託法1条)であるため、公益法人制度も公益信託制度も、民間による公益活動の促進のための“一手段”に過ぎないということは御留意いただきたい。何かしら公益の増進、社会貢献のために行いたいことがあったとして、その実現のために公益法人制度が相応しいのか、公益信託制度が相応しいのか、NPO等の他制度が相応しいのかということは、行いたい活動の規模や内容によって異なるものである。公益法人として公益信託制度を活用することが適当であることも、適当でないことも考えられる。公益信託制度の活用を考えるに当たっては、この前提を踏まえて関係者と御議論いただければ幸甚である。

 

【図表4】公益信託・公益法人・指定寄附(冠基金)の比較

 


 

【注】

(注1)【図表1】のとおり、平成18年に旧公益信託法(大正12年法律第62号)が抜本的に見直された結果として、いわゆる私益信託についての部分が公益信託法(平成18年法律第104号)として成立した。その際に、旧公益信託法の66条以降に存在した公益信託に関する規定については、同年に並行して進んでいた公益法人制度改革(公益法人制度において主務官庁制を廃止した改革)の改正内容を勘案する必要性があったことから、単なる技術的修正しか行われず、制度内容に踏み込んだ変更は全くなされなかった。
(注2)したがって、公益法人の公益目的事業として実施できる事業は、基本的には公益信託の公益事務としても実施可能であると言える。
(注3)公益信託の世界では「公益事務」と「公益信託事務」という言葉が存在する。「公益事務」とは、『学術の振興、福祉の向上その他の不特定かつ多数の者の利益の増進を目的とする事務として別表各号に掲げる事務』(公益信託法2条1項2号)であり、公益信託は『公益事務を行うことのみを目的とする』こととなっている(同法4条2項)。その上で、公益信託のためには公益事務そのもの以外にも各種書類の作成や労務管理等の処理が必要な事務が存在し、そういった事務も含めた『公益信託に係る信託事務』(同法7条3項4号)が「公益信託事務」である。
(注4)善管注意義務とは、『善良な管理者の注意をもって』(公益信託法29条2項)事務を行わなければならないという義務であり、抽象的な言い方になるが「善良な、合理的な受託者としてその地位にある者には通常要求されるであろう程度の注意を払って信託財産を管理しなければならない」ということである。分別管理義務とは、例えば信託財産が預金であれば当該信託財産のみを管理する専用口座を開設する、現金であれば専用の収納庫や金庫で管理するといったように、信託財産と受託者の固有財産とを分別して管理しなければならないということである。
(注5)信託法58条1項は『委託者及び受益者は、いつでも、その合意により、受託者を解任することができる』という規定であるが、公益信託において特定の受益者は存在しないため『受益者』は『信託管理人』と読み替えることとされている(公益信託法で明文化されてはおらず、いわゆる「当然読替え」である。信託の変更に関する公益信託法149条1項の規定等、信託法内の他規定についても同様に「当然読替え」が行われるほか、公益信託法33条3項の明文規定により読み替える事項もある)。
 また、『経理的基礎』『技術的能力』を有するものとして行政庁が判断した受託者を、委託者及び信託管理人の都合のみでいたずらに解任することは適切ではないため、『いつでも』という信託法の規定は『正当な理由があるときは』と読み替える(公益信託法33条3項)。したがって、公益信託制度においては、公益信託法58条1項は『委託者及び信託管理人は、正当な理由があるときは、その合意により、受託者を解任することができる』となる。
(注6)例えば、公益法人制度は既に一般社団法人か一般財団法人として存在している法人が公益認定を申請し認定されれば公益法人になるという二段階の制度であるが、公益信託制度は既にある信託の受託者が公益信託の認可申請をするものではなく、公益信託として認可されるまでは信託としての効力すら発生しないという一段階の制度となっている(その意味で、公益信託として認可されるまでの間は、あくまでも認可を申請した公益信託の「委託者になろうとする者」「受託者になろうとする者」「信託管理人になろうとする者」しか存在していないこととなる)。また、公益法人は『収益事業等』(認定法14条1項)として公益目的事業以外の事業を行うことができるが、公益信託は『公益事務を行うことのみ』を目的とするため、公益法人制度で言う『収益事業等』を行うことできない。

 

 

 

執筆者Profile
細川顕文(ほそかわ・よしふみ)

一橋大学社会学部卒。2023年総務省入省。行政管理局調査法制課(行政手続法等の行政通則法を所管)を経て、2024年より現職(内閣府公益認定等委員会事務局総務課室員)。2025年2月まで公益法人制度改革に携わった上で同年3月から公益信託担当に配置換えとなり、公益信託法施行令や施行規則、ガイドライン等の制定に従事。

 

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