改正公益認定法で公益法人の情報公開が変わる!
財産目録など、おさえるべき変更点を解説

改正公益認定法で公益法人の情報公開が変わる!
山下雄次
(やました・ゆうじ 税理士)

 

1.公益法人に求められる情報公開の位置付け

公益法人は、不特定かつ多数の者の利益のために活動することから、社員や評議員、寄附その他の資源提供者、サービスの受益者その他のステークホルダーはもとより、国民に対し広く情報開示を行い、透明性の高い事業運営を行うことが求められています。

 

2.財産目録や役員報酬・関連取引などの公開範囲が拡充

改正公益認定法の施行により、公益法人の情報公開の対象範囲が大幅に広がります。
特に、財産目録のインターネット上での公開、役員報酬の詳細開示、関連当事者取引の拡大、さらには海外送金やリスク対策の有無といった項目まで、情報開示の範囲が強化されました。

 

⑴ 財産目録はインターネットで公開へ

これまで行政庁へ提出された財産目録等については、行政庁に対する閲覧・謄写の請求手続を経て開示されていました。

 

改正法施行後は、法人から提出された財産目録等については、提出された書類がそのまま、閲覧・謄写といった請求手続を経ることなく、インターネット上(「公益法人information」)で誰でも見ることができる形で公表されます。

 

令和7年3月31日までに提出された書類については、改正法施行後もこれまで通りに行政庁が閲覧・謄写等の手続に対応します。令和7年4月1日以降に提出された書類が「公益法人information」で一般に公開されます。

 

⑵ 役員報酬の開示内容がより詳細に

これまで役員報酬の支給規程及び支給総額を開示していました。

 

改正法施行後は、常勤・非常勤別の理事数、監事数、理事の報酬等の総額等、監事の報酬等の年間総額等について情報開示の対象が拡張されます。さらに、法人から受ける報酬・給与の合計額が2,000万円を超える者がいる場合には、当該額及びその必要の理由を開示することになります。

 

⑶ 関連当事者の定義が拡大

関連当事者との取引の内容については、平成20年会計基準に基づいて開示されてきました。

 

令和6年の制度改正により、会計基準(運用指針)を見直し、関連当事者として、当該公益法人の役員又は評議員及びそれらの近親者等に加え、以下が対象となりました。

 

①当該公益法人の使用人及びその近親者
②社員及び基金の拠出者等(公益社団法人の場合)
③設立者等(公益財団法人の場合)

 

⑷ 海外送金やテロ資金供与対策の有無が新たに公開対象に

公益法人において海外送金の有無、テロ資金供与等のリスク低減対策の実施の有無が新たに情報開示の対象となります。海外への送金の当該事業年度の合計金額が100万円を超えず、かつ、特定の活動を行っていない場合には海外送金を行っていないとみなされます。

 

【拡充する開示情報】

(出典:新しい公益法人制度説明資料)

 

3.公益法人の情報公開の対象となる書類の一覧

事業年度の開始前および終了後に、一定の書類を作成・備置きし、透明性の確保に努めることが求められています。
改正法により、これらの書類の一部は新たに開示対象となり、誰もが容易に確認できるようになります。
公益法人が情報公開の対象として作成・備置きすべき書類を、時期ごとにお示しします。

 

⑴ 事業年度開始前に作成・備置きする書類

① 事業計画書
定款及び申請書には抽象的・包括的に記載されている事業について、事業ごとに(申請書に記載された公益目的事業との対応関係(公1-1-1等の公益目的事業の体系の中での位置付け等)、その具体的な実施方法(公益目的事業該当性を確保するための取組を含む。)、規模等について記載しなければなりません。

 

② 収支予算書
損益計算書と同様に公益目的事業に係る経理(公益目的事業会計)、収益事業等に係る経理(収益事業等会計)及び法人の運営に係る経理(法人会計)の各経理単位の内訳の表示をします。

 

③ 資金調達及び設備投資の見込みを記載した書類
資金調達(借入)や設備投資(固定資産の取得)は、法人経営において極めて重要ですが、損益ベースの収支予算書においては明らかになりません。

 

 このため、資金調達の見込みとして、当年度における借入に係る予定の有無、借入先、金額及び使途を記載し、設備投資の見込みとして、当年度における重要な設備投資(除却又は売却を含む。)に係る予定の有無、支出又は収入の予定、資金調達方法又は取得資金の使途について記載することになります。

 

④ 公益目的事業の種類及び内容、収益事業等の内容を記載した書類
公益法人の透明性を確保するとともに、その事業等に関して法人関係者及び国民のチェック機能を高める観点から、令和6年の制度改革により、申請書に記載した公益目的事業の種類及び内容等について、開示対象に追加されました。

 

 なお、本書類に記載する内容は、令和6年の制度改革前は、事業年度終了後に提出する書類の添付書類(非公表)として提出を求めていた定期提出書類の別紙3「法人の事業について」に記載されていた内容と重複する内容です。事業報告との重複を整理し、記載内容を明確化した上で、公益法人が毎事業年度に実施する公益目的事業及び収益事業の内容等を開示する書類として位置付けられました。

 

(出典:新しい公益法人制度説明資料)

 

⑵ 事業年度終了後に作成・備置きする書類

① 財産目録
公益法人が、どのような目的で、どのような財産を保有・供用し、また、どの財産が公益目的事業財産に該当するか否か等認定法における財産区分を明らかにするため、財産目録の作成・備置き等を義務付けられています。

 

 令和6年会計基準においては、「資産及び負債の状況」に関する注記として、財産目録に記載すべき事項と同様の情報を記載することとされており、当該注記の記載がある場合は、別途、財産目録を作成する必要はありません。

 

② 役員等名簿
公益法人が、どのような者によって運営・統治されているかを明らかにするため、理事、監事及び評議員の氏名及び住所を記載した名簿の作成・備置きを義務付けられています。役員等名簿において、常勤・非常勤の別、代表理事、外部理事及び外部監事についても明らかになります。

 

③ 役員報酬等の支給の基準

 

④ キャッシュ・フロー計算書

 

⑤ 運営組織に関する重要な事項を記載した書類

ア 社員その他の構成員の数その他の状況
イ 評議員(公益財団法人に限る)、理事及び監事の数その他の状況
ウ 理事等の当該事業年度に係る役員報酬、賞与その他の職務遂行の対価(職員兼務の場合における報酬賞与等を含む。)、退職金等として法人から受ける財産上の利益の合計額が2,000万円を超える者が存する場合には、当該額及びその必要の理由
エ 会計監査人の有無及び設定している場合にあってはその氏名又は名称
オ 職員の数及び常勤職員の数
カ 社員総会、評議員会及び理事会の開催年月日及び主な決議事項
キ 情報開示の適正性及び経理的基礎を担保する状況
ク 事業・組織の体系(複数の事業又は組織がある場合に限る。)

 

⑥ 事業活動に関する重要な事項について記載した書類

ア 寄附を受けた財産の額、金融資産の運用収入の額、資産、負債及び期末純資産の額
イ 他の団体の意思決定に関与することができる株式その他の認定規則第6条に定める財産についての保有の有無
ウ 関連当事者との取引に関する事項及びその明細
エ 海外への送金の有無及びそれに関連するリスクの軽減策の有無

 

⑦ 中期的収支均衡に関する数値及びその計算の明細を記載した書類

 

⑧ 公益目的事業比率に関する数値及びその計算の明細を記載した書類

 

⑨ 使途不特定財産額に関する数値及びその計算の明細を記載した書類

 

⑩ 公益充実資金について公表事項を記載した書類

 

⑪ 公益目的事業継続予備財産について公表事項を記載した書類

 

⑫ 特定費用準備資金について備置き・閲覧等の措置が講じられるべき事項を記載した書類

 

⑬ 資産取得資金について備置き・閲覧等の措置が講じられるべき事項を記載した書類

 

⑭ 指定寄附資金について備置き・閲覧等の措置が講じられるべき事項を記載した書類

 

4.公益法人の情報公開に関するよくある質問

Q1 いつから財産目録の公開が義務化されるのですか?
A 2025年4月1日施行の改正公益法人法により、行政庁がインターネット上で財産目録等を公表することになります。従来は、公益法人が個別に閲覧請求に応じる形でしたが、今後は「自動的」に広く一般に公開される点が大きな変更です。

 

Q2 公開されるのは財産目録だけですか?
A いいえ。財産目録等(貸借対照表や損益計算書、監査報告など含む広義の財務情報)に加えて、事業計画書、収支予算書、役員等名簿、社員名簿、役員報酬等の支給の基準なども公表対象になります。

 

Q3 公開によって個人情報が漏れる心配はないのでしょうか?
A 備置きされた財産目録等に記載された情報は、何人も閲覧を請求することができ出来るとともに、法人から提出を受けた行政庁において公表されます。行政庁では、公表の際に個人情報の秘匿等は行わないとされています。公益法人は、事業報告を含む財産目録等に個人情報を記載する場合には、本人の了解を得るなど、個人情報の適切な取扱いに留意する必要があります。
役員等名簿及び社員名簿の住所については、原則として開示等の義務の対象ではありません。
 現行の内閣府のシステムにおいて住所を開示対象から除外する対応ができないため、行政庁への提出については、作成義務のある社員名簿に加え、住所を除外した社員名簿の提出を求めています。住所等を記載した役員等名簿を作成し、自動作成される住所等の記載のない役員等名簿とともに提出することになります。

 

Q4 公表前に誤りを見つけた場合や修正したい場合はどうすればいいの?
A 通常は、提出書類に誤りがあった場合には、速やかに修正申請を行うことになります。行政庁は提出された資料を公表するため、誤った情報を提出しないように事前チェックが重要になります。
万が一公開後に誤りが判明した場合には、行政庁に問い合わせをして、修正手続きを行い、更新版の公表を依頼することになると考えられます。

 

Q5 事業年度終了後に作成・備置きする書類を定期提出書類として行政庁へ提出することになると思います。制度改革の影響でどのような書類を提出することになるのでしょうか?
A 提出書類の内容は段階的に切り替わります。令和6年度事業報告と令和7年度事業報告は過渡期となります。下記の提出書類リストをご参照ください。

 

 

 

今回ご紹介した質問以外にも、情報公開制度に関して疑問がある方は、全国公益法人協会の専門家相談またはセミナー情報をご覧ください。

 

 

執筆者Profile
山下雄次(やました・ゆうじ)

税理士・行政書士。全国公益法人協会相談室顧問。税理士試験試験委員。平成18年に山下雄次税理士事務所を設立。著書に『チャットでわかる社団・財団の経理・総務の仕事』(全国公益法人協会)等。

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