代表理事の役割と責任―自らを守るためにも内部統制システム構築を

渋谷幸夫
(しぶや・ゆきお 全国公益法人協会特別顧問)
神奈川県出納局長を経て、㈶神奈川県企業庁サービス協会理事長に就任。
総務省「公益法人の効率的・自律的な事業運営の在り方等に関する研究会」委員等を歴任。

 
社団・財団法人の理事には、地域の名士や有識者が選ばれる、ということは少なくありません。そのため理事とは何か、何をすればいいのかわからない、といった声もあります。
代表理事であっても、その役割がわからず、現場任せとなっているケースも多いです。
 
そこで、自身も財団法人の理事長を歴任され、長年、社団・財団法人の運営・相談をされている渋谷幸夫氏にインタビューさせていただきました。
(聞き手・構成 斉藤永幸)

Ⅰ 代表理事の役割

ーーまずは代表理事とはどのような役割なのか、からお聞かせいただけますでしょうか。
渋谷 代表理事と一般的な理事との違いは、代表権と業務執行権がある、ということです。まず、わかりやすくするために株式会社の取締役と比較しながら考えてみましょう。代表取締役については会社法349条で以下のように規定されています。
【会社法】
 (株式会社の代表)第349条 取締役は、株式会社を代表する。
ただし、他に代表取締役その他株式会社を代表する者を定めた場合は、この限りでない。2 前項本文の取締役が 2 人以上ある場合には、取締役は、各自、株式会社を代表する。3 株式会社(取締役会設置会社を除く。)は、定款、定款の定めに基づく取締役の互選又は株主総会の決議によって、取締役の中から代表取締役を定めることができる。4 代表取締役は、株式会社の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。5 前項の権限に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。 
このように代表取締役は、会社の代表権限を有し、業務執行を行うことができる、と定められています。会社法は、「業務執行の決定」とその実行行為である「業務執行」とをはっきりと区分しており、取締役会設置会社では、業務執行の決定を原則として取締役会が行い、実行行為としての業務執行は権限のあるそれぞれの取締役が行うこと、と定められています。
つまり取締役会の決定に基づいて、実行(執行)するのがそれぞれの取締役であり、代表としてそれを統括するのが代表取締役、ということができます。
 それに対し一般法人法77条4項は、一般社団法人、一般財団法人、公益法人の代表理事の代表権、業務執行権に関し会社法349条 4項と同じ規定となっています。
【一般法人法】
 (一般社団法人の代表)第77条4項 代表理事は、一般社団法人の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。 
これは、一般法人法が会社法に倣って作成されているからです。したがって、代表理事が有する代表権と業務執行権の考え方については、株式会社の代表取締役についてのそれと同じである、とみることができます。つまり、代表理事は理事会で決めたことをベースにして、実際に業務執行を行うのが代表理事、となります。
しかし、株式会社の代表取締役については、業務執行行為により会社に生じた損害を賠償する責任を負うこと(業務執行上の判断の誤り)、また他の取締役に対する善管義務違反を含む不作為につきある程度以上の規模を持つ会社の代表取締役には、業務執行の一環として会社の損害を防止する内部統制システムを整備する義務が存在することから、経営責任が問題となる場合が多くあります。
 
これに対し、一般法人の代表理事についても、法律上は同じ条文構造になっています。ただ、実際では具体的な責任問題に違いがあります。法律上では一般法人法111条(役員等の一般社団法人に対する損害賠償責任) 1項で「理事、監事又は会計監査人(以下この節及び第301条第 2 項第11号において「役員等」という。)は、その任務を怠ったときは、一般社団法人に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」としています。これは会社法423条 1 項と同じです。
ただ、現実にこのことが問題となるケースはほとんどありません。ではその違いはどこからきているのでしょうか。それは株式会社が「株主の利益を最大限にすること」を目的としているからです。問題が生じれば利益は減り、経営責任が問われることになります。しかし一般法人ではこの目的が異なるので、すぐに代表理事に責任を取らせる、ということが実際には少ないのです。
 
つまり、一般法人法と会社法とが同じ条文構成になっていても、具体的な責任問題では異なっている、と捉えることができるでしょう。

Ⅱ 日々の業務で担うべきこと


ーーでは日々の事業で、代表理

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