内閣府、立入検査が半減
令和3年12月10日に、令和2年「公益法人の概況及び公益認定等委員会の活動報告」が内閣府から公表された。令和2年度の公益法人に対する立入検査の実施件数は、内閣府によるものが322件(前年度は617件)で前年度比47.8%の減少、都道府県によるものが1,795件(前年度は2,121件)で前年度比15.4%の減少であった。これは、新型コロナウイルス感染症拡大のために、実施予定であった立入検査を次年度に繰り越したためとされている。
以下、近畿大学教授の吉田忠彦氏のコメントを掲載し、活動報告の抜粋を掲載する(本誌:高橋孝治)。
公益認定数にコロナ禍の影響はなし
近畿大学教授・非営利法人研究学会常任理事 吉田忠彦
<Profile>主な著書に『非営利組織論』(共著、有斐閣)『ボランティアの今を考える』(編著、ミネルヴァ書房)等。
令和3年12月10日に令和2年「公益法人の概況及び公益認定等委員会の活動報告」が内閣府より発表された。これは令和元年12月1日から令和2年11月30日までを対象とするもので、おおよそ1年前の状況を示したものとなっている。白書は平成10年1月に最初のものが刊行されて以来24年にわたる歴史を持つが、新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大という特殊な期間の1年目を対象としたものであるため、この年度版はもしかすると新しい時代の転換点を示すものになるかもしれない。
公益法人の概況としては、令和元年の認定数は77件、公益法人の総数は令和2年12月1日で9614法人となっている。安定した増加率で、まだコロナ禍の影響は見られない。その影響が見られるのは、後半の「公益認定等委員会の活動報告」である。委員会のメインの活動は公益法人に係る審査と監督であるが、その内の監督については認定法の規定で報告徴収・立入検査、勧告・命令等を行うこととされている。この内、立入検査は実際に法人の事務所に立ち入って事業の様子や帳簿等の現物を確認したりすることになっている。これがコロナ感染拡大防止の配慮から、予定の約半分の件数となった。内閣府の公益認定等委員会では例年は600件以上の立入検査を実施してきたものが、令和2年度は322件にとどまった。
立入検査は実施の概ね1か月前に日時や場所が通知されることになっており、それなりの対応準備ができるはずであるが、指摘事項や報告徴収を見ると、必ずしも十分に準備が行われたとは思えないケースが見られる。令和2年度の報告徴収は内閣府で15件となっており、その内容は「表2-2-14」(71頁)に概要が示されている。中には立入検査に対応する役員が来なかった理由、再発防止措置を問うといったものがあり、かなり深刻な状況に陥っている法人もあることが推測される。しかし他方では、ケアレスミスのようなものが頻発している。これは「立入検査時によくある指摘事項の周知徹底」という囲み記事で紹介されている(69頁)。こうした記事は立入検査の準備として、しっかりと確認しておく必要があるだろう。
立入検査時によくある指摘事項の周知徹底
公益認定等委員会及び内閣府では、移行期間が終了した平成26 年度から立入検査の実施を本格化させている。立入検査の際の指摘事項には、多くの法人に共通するものも見られることから、「法人運営における留意事項~立入検査における主な指摘事項を踏まえて~」として取り纏め、「公益法人information」(https://www.koeki-info.go.jp/)に掲載しているほか、各種セミナーにおいて取り上げ、毎月発行している「公益認定等委員会だより」に随時掲載するなどして周知に努めている。
○機関運営関係の指摘事項
決算承認の理事会と社員総会(評議員会)の開催間隔については、法人法の規定により決算承認の社員総会(評議員会)が開かれる2週間前から計算書類等を備え置くことになっているため、理事会と社員総会(評議員会)の間を中2週間以上空ける必要があるが、同日開催を行っている事例がしばしば見受けられる。全国に役員が点在している法人の場合など、「一堂に会する」ことが実際には難しいといった声も聞かれるが、法令及び定款に基づき「決議の省略」を行ったり、Web会議などを利用したりすることも可能であり、適切に開催することが求められる。
また、代表理事及び業務執行理事は、自己の職務の執行状況を理事会に報告しなければならないことが法人法に定められているが、その実施が確認できない事例が見受けられる。実際は職務執行状況の報告は行われているものの、議事録に明記されていないために確認できない事例も多いが、適切に議事録の作成が行われる必要がある。
○業務の手続き関係の指摘事項
手続き関係では、変更認定申請・変更届出の懈怠が挙げられる。
認定法により、公益目的事業や収益事業等の内容の変更等を行うなどの場合には、事前に変更認定申請を行い、認定を受ける必要がある。また、役員の変更等に際しては、変更後遅滞なく変更届出を行う必要がある。公益法人は、申請書の記載に基づき公益認定を受けたものであり、申請書に記載されていない事業を新たに実施したり、申請書の記載と異なる方法で事業したりすることは、大きな問題である。
その他、組織の実態と内部規則との乖離、書類の備え置きの不備等も事業運営等の不備の例として散見される。
○その他の指摘事項
財務・会計関係では、無報酬との規定にかかわらず一定額の役員報酬を支給していた事例や、現預金・印鑑・金庫管理が不十分等の事例が挙げられる。法人には継続的・安定的な公益目的事業の実施を担保するための経理的基礎を有することが必要であり、鍵のかかる金庫を使用する、鍵の管理者と経理担当者を別にするなど、適正な財産管理を日頃から徹底することが求められる。
参考:立入検査における主な指摘事項を踏まえて
https://www.koeki-info.go.jp/administration/pdf/houjinunei_ryuijikou.pdf
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