攻めのガバナンスと充実した公益活動
(たまるや・まさゆき 東京大学大学院教授・「新しい時代の公益法人制度の在り方に関する有識者会議」委員)
2023年に私立学校法が改正され、つい先日公益法人認定法の改正が国会で成立した。この間も、日本大学や東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会など、非営利法人を巡るガバナンス不全が報じられた。日大の井ノ口忠男とオリパラ委の高橋治之の両元理事に対しては刑事裁判が進んでいる。
刑事被告人には無罪推定が働くが、同時に非営利法人のガバナンスは、二人を非難すれば済む問題でもない。報道では、二人はそれぞれ日大事業部と電通で実績を積んできた。そうした人が能力を発揮しながら矩を踰えず、私益ではなく公益に仕える環境を整えることが非営利法人のガバナンスである。そう考えてこそ本質的に守りのガバナンスが、攻めのガバナンスとして公益活動の充実につながる。
どうすればガバナンスが充実した公益活動につながるのか。非営利法人には、営利会社と異なり、持分権者(株主)がいない。また、多くの非営利法人では経営資源や専門人材が不足している。不正を行った非営利法人に制裁を加えたり解散させたりしても、不利益を受けるのは株主でなく公益(幅広い受益者)である。こうした事情を踏まえて考える必要がある。
3 つの観点から糸口を探りたい。第 1 に、非営利法人が今日用いているガバナンスの手法は機能するか、よりよく機能するにはどうすべきか。大学やスポーツ連盟向けのガバナンス・コードが生かされているか、不祥事を起こした日大やスポーツ連盟の第三者委員会の提言が生かされてきたか。情報公開をどのように行い、その情報をどう活用するか。
第 2 に、幅広いステークホルダーの意見や利益をどう反映するか。理事会や評議員会のメンバーの多様性と、議論の実質性と迅速性をどう両立するか。寄付者や助成団体、補助金を交付する政府や自治体、取引先の企業が
どう関わるか。法人の活動で不利益を受けた人、不正を指摘する人の声をどう拾うか。内部通報や、調停・仲裁や民事裁判による紛争解決をどう位置づけるか。刑事裁判では遅い。
第 3 に、資源をどう調達し、どこまでガバナンスに割くか。寄付・助成や補助金給付を通じガバナンスの費用を補助したり、社会的インパクトの向上を目指す団体を重点的に補助したりできないか。公益法人の財務基準の柔軟化と公益信託法改正が実現し、クラウド・ファンディングや寄付者助言基金などの寄付仲介手法が広がれば、非営利法人が資金を獲得し、中長期的に管理し活用するきっかけになる。有限の資源を公益活動とガバナンスにどう生かしてゆくか。今後も考えてゆきたい。
東京大学法学部学士、ニューヨーク大学法科大学院修士LL.M。立教大学を経て2020年より現職。専門は英米法、非営利法人法、信託法。主著に『英国チャリティ――その変容と日本への示唆』(公益法人協会編・岡本仁宏ほか共著、弘文堂2015年)、Charity Governance in Japan, in Rosemary Teele Langford(ed) Governance and Regulation of Charities (Edward Elgar 2023)
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