「公益法人会計基準」改正の意義
―情報開示の項目には課題残る―

衣目成雄
(ころめ・なるお 公認会計士、税理士)

 

 公益法人会計基準が改正されたが、私を含め、今回の改正の意義を正しく理解している人はいるのであろうか。
 今回の改正は、日本公認会計士協会の非営利法人モデル会計基準を基に、公益法人特有の事情をふまえたものであり、他の非営利セクターを担う法人との比較可能性を確保する先駆けとなった点に意義があると、私は理解している。
 今後、社会福祉法人会計基準なども同様に改正が行われていけば、貸借対照表と活動計算書によって非営利セクター全体の比較可能性が確保できると期待されるため、これは非常に有意義な一歩といえよう。
 ただし、会計の意義は「他の法人との比較可能性の確保」だけではないことは、各位も十分ご承知のことだろう。
 会計には、「計算書類の利用者に資する適切な情報開示」という、もう1つの重要な意義がある。この情報開示という面、特に注記の面で、私は問題点が2点あると考えている。
 第1に、現在の運用指針に示されている注記の様式例だけでは解釈の幅が広く、適切な情報開示の具体的なイメージがつかみにくい点である。第2に、新別表B⑸や新別表C⑵に相当する内容の注記が必須化されたが、これが公益法人Informationにおける開示情報と重複している点である。
 具体的に述べると、まず1点目について、改正によって「正味財産増減計算書内訳表」などがなくなり、それに相当する内容を注記に記載することになった。しかし、その注記項目は「正味財産増減計算書内訳表」などと全く同じではない。この点について、設例などを伴う具体的な表示方法が示されれば、各法人が注記のイメージを共有でき、解釈の差異を生じさせることなく公益法人・一般法人間の比較可能性を保てるのではないかと考える。
 次に2点目だが、新別表に相当する内容の注記が必須化されたことで、定期提出書類の作成事務が決算の繁忙期に加わることになり、かえって実務負担が増大している。このため、会計監査人を設置していない法人については、附属明細書の「財務規律適合性に係る明細」と同様に、この注記を任意記載とすることが望ましいのではないだろうか。
 とはいえ、改正された公益法人会計基準はすでに公表されている。公益法人・一般法人がこの新しい基準に円滑に対応していくためには、決算処理の効率化が不可欠である。これを支える専門家として、我々もしっかりと支援していきたい。

 

執筆者Profile
衣目成雄(ころめ・なるお)
衣目公認会計士・税理士事務所所長。みすず監査法人、監査法人トーマツ、衣目修三主宰の衣目公認会計士事務所での勤務を経て、現在は同事務所の代表を務める。公益法人等の非営利分野を専門とし、公益法人用会計ソフトを提供するピー・シー・エー㈱社外監査役に令和5年より就任。第1回渋谷幸夫賞(全国公益法人協会実務大賞)受賞。

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