第6回 浮世に揺曳する難儀な2種類の事実

藤島寒月
(フランス現代社会学者)

 浮世には、社会科学の観点から見ると、 2種類の事実が存在する。 1 つは主観的事実である。では、「もう 1 つの事実は?」と問われて、読者諸賢は何とお答えになるだろうか。
 私の研究室に出入りする大学院生 2 人が、執務する私の傍らで雑談している。
 X君:おれ最近ジムに通っていてね、 3 キロも痩せたんだ。
 Y嬢:へー。でも問題は、周りからどう見えるかですよね。
 ここで執務する私の手がとまる。「これは思いの外、奥深いギロンだ」。

主観的事実と社会的事実

 2人の会話空間においては、X君の「 3キロ痩せた」という事実と、Y嬢の「そうは見えない」という事実が、併存している。X君の「 3キロ痩せた」という事実は、おそらくヘル
                           

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