其之三 役員退職慰労金

公益法人会計仕訳一本勝負 会計バカ一代season2

古市雄一朗
(ふるいち・ゆういちろう 大原大学院大学教授)

「引当金」でコストを認識しよう!

前回 6/15 日号では、賞与の支払いに関係する費用の仕訳について紹介した。後日、担当編集者に探りを入れたところ、「いつでも賞与が支給されるように準備万端です」との返事が返ってきた。
私をはじめとする執筆者にボーナスを支給する用意が準備万端ということなのか、自分が賞与をもらう準備が万端という意味なのかは定かではないが、おそらく前者であろう。今から原稿料のボーナス支給が楽しみでならない。

 

この賞与を費用として認識する場合には、会計上の負債としての「引当金」という項目を用いることを説明した。引当金は、現時点では現金の支出がない費用を前もって認識するための項目であるというところがポイントであり、費用として認識する金額と現金の変動額がその時点ではリンクしないということになる。

この引当金を使って費用を認識することで、毎期に発生するコストを正しく認識する必要が生じるのは、この賞与に関するもの以外にも多く存在する。例えば、公益法人の役員の退任時に支払われる役員退職慰労金に関係する会計処理もこれに含まれるであろう。

 

役員退職慰労金は多くの場合、勤務期間等に応じて退任後に支払われるが、実質的には、退任前の勤務期間中の労働対価に対する報酬の後払いという性質を有している。そのため、慰労金の支払い、つまり現金の支出は退任後となるが、その支払いに係る費用の認識は勤務期間中に行う必要がある。その費用の認識を示したのが、冒頭の仕訳1である。
左側でその役員退職慰労金の支払いについて当期に認識する費用を計上し、それに相当する金額を引当金として計上している。

「仕訳」で支払い資金の積立を!

なお、認識する金額については、当期における要支給額、すなわち当期において役員が退職し、役員退職慰労金を支払うことになったと仮定した場合の金額(実際には当該役員が退職せずに勤務を続けた場合にはその支払いは生じないため、あくまで仮定の計算となる)と、過年度に計上してきた費用の累積額である役員退職慰労引当金の差額を当期に認識する費用額とする方法をこの設例では用いている。
本来ならば、この毎期の費用の算定においては給付水準の変化や利息要素等を加味した数理計算の結果に基づいて決定されるのだが、職員数が 300 人以下の小規模法人や「公益法人会計基準」運用指針の 5 にある通り、高い水準の信頼性をもった算定が難しい場合には本設例のような簡便的な方法が認められている。

 

なお、この引当金を計上しただけでは実際の支払いのタイミングで必要になる資金が法人内において準備されることにはならない。①の仕訳を見ると、変動が記録されているのはあくまで費用と負債だけであり、将来、支払いに用いられることになる資産の積立についての処理は行われていない。
そこで、将来の支払い手段となる資金を法人内に積み立てておくことを示したのが仕訳②である。この場合、特定の目的(将来の退職慰労金の支払い)のために区分された特定資産として、将来の支払い手段となる現金が役員退職慰労引当資産として他の資産と区分されて積み立てられていることを示している。

 

上記1および2の仕訳の関係を整理するならば、①はコストの認識のために行われる仕訳であり、②は将来の支払いのために用いる資産を他の資産と区別して内部に積み立てられたことを示す仕訳であると言える。

そういえば、以前に連載していた「会計バカ一代」の終了に伴う連載終了慰労金を受け取っていないことに気づいてしまった。担当者が気を利かして連載終了慰労金を特定資産として私のために準備していることを祈るばかりである。


古市雄一朗/大原大学院大学教授。専門は非営利組織会計。



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