改正公益認定法のポイント
―見るだけでわかる早見表―

大内隆美
(おおうち・たかみ 構想日本プロジェクトリーダー(公益法人担当))
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    • 法改正
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    • 公益法人
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    • 管理職・職員
目  次

Ⅰ はじめに

 現代社会は情報の洪水に見舞われている。この情報過多の時代において、必要な知識を効率よく取り入れる手段として、SNSからTVニュースに至るまで、時間と効果を最大限に引き出す「タイパ」思考が注目されている。  

 この背景を踏まえ、改正認定法案及び新公益信託法案の閣議決定までに内閣府が公表してきた様々な資料をもとに「タイパ」思考で簡潔明瞭に改正法案の要点を抽出し、事細かな説明は割愛した「改正案:現況」という形の一目で把握できる対照早見表を作成した。  

 この早見表は「詳細は追々として、取りあえずどこがどう変わるか知りたい!」という方々のニーズにお応えすべく、内閣府資料に従って改正点を10項目に整理したものである。また、主な改正点の補足説明も簡潔にまとめた。政省令確定まではまだ多少の変遷はあっても、大枠の方向性はここに示されている。

 

Ⅱ 改正点:現況対照早見表

⑴ 収支相償原則の見直し
改正点 現 況
① 公益目的事業の費用と収入について中期的期間で均衡を図る趣旨を明確化
② 当該年度に黒字が生じた場合は 5 年間で解消
③ 過去 5 年間の赤字も通算可能
④ 公益目的事業全体で収支均衡を判定
⑤ 特定費用準備資金・資産取得資金の使い勝手を改善した「公益充実資金」を創設(積立は費用とみなし、変更認定前の新規
事業のための仮積立も可)
⑥ 寄附金を指定正味財産とする際の使途は「法人の公益目的事業全体」と指定することも可
⑦ 収支相償という呼称を変更
① 公益目的事業に要する費用を超える収入を得てはならない
② 当該年度に黒字が生じた場合は 2 年間で解消
③ 過去の赤字は考慮されない
④ 公益目的事業ごとの収支差と公益目的事業全体の収支差 2 段階で収支均衡を判定
⑤ 特定費用準備資金・資産取得資金の積立は使途の特定が必要(変更認定前の積立は不可)
⑥ 寄附金を指定正味財産とするには個々の事業レベルでの具体的な使途指定が必要
⑦ 上記の制約を総じて収支相償と称する
⑵ 遊休財産規制の見直し
改正点 現 況
① 災害等の予見し難い事由に対応し、公益目的事業を継続するために必要となる「公益目的事業継続予備財産」を保有制限の対象から除外するとともに、同財産の保有理由の公表を義務付け
② 保有上限額となる 1 年分の公益目的事業費は、過去 5 年間の事業費の平均額を基本とし、当年度又は前年度事業費を選択することも可能とする
③ 使途不特定財産に名称変更
① 法人全体で公益目的事業費 1 年(当該年度の公益目的事業費)相当分を超える遊休財産は保有できない。
② 保有上限額は 1 年分の公益目的事業費相当額
③ 上記余剰財産を遊休財産と称する
⑶ 公益法人による出資等の資金供給
改正点 現 況
① 株式保有等の資産運用について、認定法による制約をより具体的に明確化
② 公益法人による資金供給を円滑にするため、公益目的事業としての出資に係る考え方・判断基準を明確化
① 「投機的な取引を行う事業」「他の団体の意思決定への関与」に該当しない限り、株式保有等の資産運用は可能
② 公益目的事業としての出資を実施している法人数は限定的
⑷ 公益認定・変更手続の柔軟化・迅速化
改正点 現 況
① 公益目的事業の一部廃止、事業再編、統合、縮小、収益事業等の内容変更等、事業の公益性に実質的に大きく影響せず事後の監督手段で是正しうる変更は届出対応
② 公益認定の基準を明確化し、変更認定事項と届出事項の具体的な判断基準を明確化
③ 審査に必要な書類の簡素化・合理化
④ 審査期間を公表し短縮を図る
① 公益目的事業の種類又は内容の変更、収益事業等の内容の変更、事業の実施区域等の変更は認定対応
② 公益認定申請書の記載事項の変更及び行政庁の変更を伴わない場合は「軽微な変更」として届出
③ 法令で個別に規定された書類のほか「行政庁が必要と認める書類」を提出する
④ 審査期間が長期化
⑸ 合併手続等の柔軟化・迅速化
改正点 現 況
① 吸収合併で消滅法人の事業を引き継ぐ場合(廃止含)は届出とする
② 吸収合併の消滅法人が実施していなかった新規公益目的事業を追加する場合は変更認定が必要
③ 新設合併については、地位承継の認可手続を一部簡素化し迅速化を図る
④ 自発的な申請に基づく公益認定取消を欠格事由から除外
①② 公益法人が吸収合併をする場合、主体、法人形態によって行政庁への変更認定か合併届出かの手続が異なる
③ 新設合併は消滅する公益法人による認可申請により、新設法人に公益法人の地位を承継することが可能
④ 自発的な申請に基づく公益認定取消は欠格事由に該当し、 5 年間は再認定を受けることができない
⑹ わかりやすい財務情報の開示
改正点 現 況
① 原則すべての法人に 3 区分経理(公益目的事業、収益事業等、法人運営)を義務付け、P/L・B/S内訳表の作成を必須とする(一部除外あり)
② 「公的目的取得財産残額」について、公益目的事業会計の純資産を基礎として残額を算定する簡素な方式に変更
③ 定期提出書類における別表についてはできるだけ内訳表で代替することで、廃止又は記載事項を簡素化
① P/L内訳表は原則作成、B/S内訳表は収益事業等の利益50%超を公益目的事業に繰り入れる場合のみ作成必須
② 毎年度末時点での「公的目的取得財産残額」を算定するため、別表Hを作成
③ 定期提出書類別表A〜Hを提出
⑺ 法人運営の透明性とDX推進
改正点 現 況
① 行政庁は法人から提出を受けた財産目録等を閲覧請求によらず公表
② 法人の開示情報の拡充(財務諸表、取引情報、役員報酬等の公表)
③ 国の責務として、情報収集・提供等の公益法人の取組の支援を行う旨を規定し、法人情報を一元的に閲覧・利活用できるプラットフォームを整備する
① 行政庁は、法人から提出された財産目録等について閲覧請求に応じなければならない
② 法人は、財産目録等を事務所に備え置き閲覧請求に応じなければならない
③ 法人情報がバラバラに存在し、利活用しにくく、国民からのチェック機能が働きにくい
⑻ 法人機関ガバナンスの充実
改正点 現 況
① 事業報告に法人によるガバナンス強化の取組を記載する
② 理事と監事間の特別利害関係排除、外部理事・監事の導入
③ 会計監査人必置とする範囲を拡大(収益100億、費用100億、負債50億以上)
④ 評議員選任等のための選考委員会設置等を推奨
① 事業報告の記載方法は法人の任意
② 理事同士・監事同士は特別利害関係排除
③ 会計監査人は原則設置(収益1,000億未満、負債50億未満は除外)
④ 評議員選任のための任意の機関設置が望ましい
⑼ 事後チェックの重点化
改正点 現 況
① 立入検査は不適切事案の端緒を掴んだ法人に重点を置き機動的・集中的に実施
② 監督・処分に当たっての考え方を明確にして、監督状況や改善状況は内閣府が一覧性をもって公表
① 立入検査は定期的・網羅的に実施
② 監督状況は勧告が公表、命令・取消は公示、改善状況は公表されない
⑽ 新しい公益信託制度の要点
改正点 現 況
① 主務官庁制の廃止と行政庁(公益法人と共通)による認可・監督制の創設
② 公益信託事務の適正な処理に必要な経理的基礎及び技術的能力を有するものに受託者の範囲を拡大
③ 信託財産の範囲を拡大
④ 信託目的として多様な公益活動が可能
① 主務官庁による許可・監督制度の下にあり、許可基準が主務官庁毎に異なる
② 受託者は信託銀行に限定
③ 信託財産は金銭に限定
④ 信託目的は助成など金銭給付に限定

Ⅲ 改正認定法の概要

1 制度改革の考え方

 公益法人は、日本全国で約9,700存在し、約29万人の職員が働いており、年間約 5 兆円の公益目的事業費と約31兆円の総資産を保持しているが、現行制度の財務規律や手続の下ではその潜在力を発揮しにくいとの声がある。これを解消し公益法人本来のポテンシャルによって民間公益の活性化を図るために、法人 の経営判断で社会的課題への機動的な取組を可能にするとともに国民からの信頼・支援を得やすくすることでより使いやすい公益法人制度となるように見直しを行う。さらに、公益信託法改正による民間公益活動に関する選択肢の多様化と併せて新しい資本主義が目指す「民間も公的役割を担う社会」の実現に貢献する改革を推進する。  

 今後の制度改正施行スケジュールとして、改正法成立後に政省令・ガイドライン制定、会計基準の策定、体制整備等が行われ、改正認定法令は令和 7 年 4 月、新公益信託法令は令和 8 年 4 月施行予定となっている。

 

2 各項目改正案の概略

⑴ 「収支相償原則の見直し」

 公益目的事業非課税等の税制優遇の前提として公益目的事業に係る収入と適正な費用を比較し、公益目的事業に充てられるべき財産の最大限の活用を促す現行の制度はやや曖昧で、単年度の収支が赤字でなければならないとの誤解を招く規定になっていることから、中期的期間で収支の均衡を図る趣旨を法律で明確化する。公益目的事業全体で収支均衡を判定し、黒字が出た場合も 5 年間で均衡を回復することが可能となる。また、過去の赤字も繰越が可能となり、特定費用準備資金、資産取得資金を統合した「公益充実資金(仮称)」という新しい資金設定が認められるようになる。これにより、細かな事業単位ではなく、大きな枠組みで資金設定が可能となり、新規事業の仮積立も可能となる。

 

⑵ 「遊休財産規制の見直し」  

 法人が安定した運営を続けるために必要な余裕財産を確保すると同時に使われずに蓄積されることを防ぐことが本来の目的ながら、必要な財産は法人の事業内容や規模により異なり、既存の制度ではコロナ禍のような突発的な事態に対応するのは困難なため、法人の判断で必要な財産を確保し不足時に対応できるような制度に改める。具体的には、災害等の予見し難い事由に対応し、公益目的事業を継続するために必要となる公益目的事業財産(公益目的事業継続予備財産)をその保有制限の算定対象から除外する(同財産の保有理由の公表を義務付け)。また、資産状況は事業別に区分し、上限を超えた遊休財産額は公益目的事業会計に帰属させる。従来の上限額は直近 1 年分の公益目的事業費が設定されていたのに対して過去 5 年間の事業費の平均額を基本とするが、当年度または前年度の事業費相当額も選択できるような柔軟性を持たせることとする。これにより、法人は自身の事業状況に応じて適切な財産管理が可能となる。なお、「遊休財産」の名称は「使途不特定財産」へ変更される。

 

⑶ 「公益法人による出資等の資金供給」  

 認定法が規定する株式保有等の資産運用と しては「投機的な取引を行う事業」や「他の 団体の意思決定への関与」は禁じられている。 しかし、投機的な取引事業については公益認 定等ガイドラインの記述が限定的であり、公益目的事業として他団体に出資する法人の数も限られている。そこで、これを踏まえた制 度の見直し案として、新しいガイドラインでは資産運用規制を明確化し、公益目的事業として他団体への出資時に考慮すべき基準や考え方も整理する。これにより、公益法人の出資等の資金供給がより透明性を持って効率的に行われることが期待される。

 

⑷ 「公益認定・変更手続の柔軟化・迅速化」  

 事業の変更には事前に行政庁の認定を受ける必要があったが、事業の公益性に大きな影響を与えず事後の監督手段で是正しうるものは届出化する。具体的には、既存事業の再編、統合、縮小、廃止、収益事業等の内容変更が該当する。公益認定の基準を明確化することにより、変更認定と届出事項の判断基準を明 確化し、必要書類は簡素化・合理化される予定である。また、行政庁では審査期間を公表し、手続を迅速化する。

 

⑸ 「合併手続等の柔軟化・迅速化」  

 吸収合併や新設合併といった合併の形式や存続する法人か消滅する法人かといった主体の相違により認定申請を要する場合と届出で足りる場合があり、手続が複雑化している現状を解決するため、吸収合併については一部を届出による対応に切り替える方向性が示されている。新設合併についても認可の手続を明確化し、必要書類の合理化による処理の迅速化が検討されており、改正に伴って合併手続の新たなマニュアルが示される見込みである。関連して、公益法人が何らかの事情で公益認定の取消しを申請し一般法人になる選択をした場合、公益認定の取消後 5 年間は再認定ができないという欠格事由が定められているが、自発的な申請により公益認定の取消を受けた場合は欠格事由から除外され、公益法人と一般法人の間の転換を容易にすることが示されている。

 

⑹ 「わかりやすい財務情報の開示」  

 現在は収益事業等と公益目的事業の会計を区分して整理することが求められているが、収益事業等を行っていない一部の法人では正味財産増減計算書(損益計算書)や貸借対照表の内訳表作成は任意となっている。また、毎年、行政庁に提出する定期提出書類には各種別表が含まれており、特に別表Hでは公益目的取得財産残額、つまり公益認定が取り消された場合に贈与が義務付けられる残余財産額の算定が求められる。これには複雑な計算が必要で法人側・行政側共に負担が大きい。こういったことから、一部を除き原則としてすべての法人に三区分経理を義務付け、別表についてはできる限り内訳表で代替することで廃止又は記載事項を簡素化する。  また、「正味財産増減計算書」は「活動計算書」に名称変更し、本表(貸借対照表・活動計算書)は簡素でわかりやすく、詳細情報は注記及び附属明細書で開示するなど、財務諸表全体をより容易な形への見直しが予定される。

 

⑺ 「法人運営の透明性とDXの推進」  

 法人活動の自由度を拡大する一方で国民の信頼を得るためには、法人側の情報開示の拡充やデジタル環境の推進が必要となる。法人は事務所に財産目録等の備え置き書類を配備し外部からの閲覧請求に対応する義務を負うが、法人運営の透明性を一層向上させるために、今後は法人のWebサイト等で財産目録等を広く公表することが努力義務となる。また、行政庁側も提出を受けた財産目録等を公表する。新たに法人側が開示する情報として、個人情報に配慮しつつ利益相反等の取引情報や役員報酬等が追加の対象となる。国の責務としては、情報収集・提供等の公益法人の取組の支援を行う旨を規定し法人の情報を一元的に閲覧・利活用できるプラットフォームを整備する。公益法人行政に関する全ての手続が電子情報で完結するように、国民への情報提供の観点から利便性を高めるシステム改修が検討されている。

 

⑻ 「法人機関ガバナンスの充実」  

 財務規律の柔軟化に伴い法人が説明責任を果たしていく必要性が増し、不祥事防止やコンプライアンス確保も重要となり理事会や理事、監査機能の一層の強化が求められる。公益法人の責務としてガバナンスの充実や透明性の向上を図るよう務めるべき旨を規定し、公益認定基準として、理事と監事間の特別な利害関係排除、事業報告書等に法人自ら取り組んだ自律的なガバナンス強化策記載、外部理事・監事の導入が追加される。さらに、会計監査人による監査機能強化(収支100億円以上または負債50億円以上の法人へ拡大)、評議員の選任等のための選考委員会の設置等を推奨、といった方策が検討されている。

 

⑼ 「事後チェックの重点化」  

 立入検査は不適切な事案をあらかじめ予防するという事前チェックの考え方で、おおむね3 年に 1 回の頻度で網羅的に実施されてきた。しかし、法人運営の透明性の向上やガバナンスを強化する取組にもかかわらず不適切な法人が生じた場合には、より実効性の高い措置が必要となる。そこで、定期的・網羅的な実施方法を見直し、不適切事案の端緒を掴んだ法人に対して機動的、集中的に検査を行うことが検討されている。また、監督措置の実効性向上策として監督の考え方・行政側の考え方をあらかじめ公表し、法人側の予見可能性が高まることによる自主的自律的な改善促進を期待する。  緊急性の高い事案についてはより迅速な措置を可能とするものとして、勧告の手続を取らずに命令などの措置を取ることを可能とする。一方で、法人側の自発的な改善も促し、行政庁による監督を待たずに自主的に改善が行われた場合は、行政側の監督措置の減免などが検討されている。これらの取組により、公益法人の運営の透明性と信頼性が向上し、より効果的な事後チェックが可能となる。

 

⑽ 「新しい公益信託制度の要点」  

 現行の公益信託制度は主務官庁制による許可・監督制となっており、信託財産は金銭に限定され、受託者も信託銀行に限られている。新公益信託法案では、公益法人と共通の枠組みで公益信託の許可を行う仕組みとなるように制度が改められる。要点として、主務官庁制の廃止と行政庁(公益法人と共通)による認 可・監督制の創設、公益信託の認可基準及びガバナンス等の法定化、信託事務・財産範囲の拡大が挙げられ、認定法改正案の中でも公益法人と公益信託との関わりを明確にしている。

 

Ⅳ おわりに

 本年 5 月14日に国会で改正法が成立され、今後政省令やガイドライン等が作成される予定だが、その際も「タイパ」思考でアップデートした情報を提供するので、ぜひ理解を進めることに役立てていただきたい。

執筆者Profile
大内隆美(おおうち・たかみ)

構想日本プロジェクトリーダー(公益法人担当)。内閣府公益認定等委員会の委嘱により新公益法人制度普及啓発員、新公益法人制度に係る相談員、公益法人等制度に係る相談員を歴任

 

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