行政法学からみた公益法人制度

宮森征司
(みやもり・せいじ 新潟大学准教授 / 内閣府公益認定等ガイドライン研究会参与)

 

 行政は言うまでもなく国民一般の利益(公益)を実現するものであり、そうであるとすれば本来、行政法学は、公益法人制度と関連が深いはずの学問分野である。しかしながら、公益法人制度については、これまで十分に行政法学の検討の俎そ上じょうに載せられてきたとは言い難い。さしあたり、古典的な行政法学では、公益を遂行する主体は行政主体であることが前提にされてきており、言うまでもなく現代ではこの考え方は支持されていないものの、民間主体が担う公的実現への学問的アプローチは必ずしも確立していない。公益法人制度について言えば、組織それ自体は民の側に属するものであり、そのガバナンスに関わる議論は、民商法学・会社法学に委ねられるべきものと考えられてきた節がある。以上のような認識を踏まえた上で、公益法人制度と行政法学との議論の結節点(課題)をいくつか書き出してみたい。
 第一に、現代社会においては、公益の遂行する組織・主体はもはや行政に限られず、民間主体をも広く含むという理解は行政法学においても共通認識となっており、この中に公益法人が含まれることは言うまでもない。公益法人のガバナンスを踏まえ、行政の視点から見た場合に、公益実現のためのネットワークの中で公益法人をいかに位置付けるべきかという総論的な問題がある。
 第二に、よりオーソドックスな論点として、公益認定をめぐる行政裁量に関わる問題がある。一般法人に行政庁が公益認定をして税制上の優遇を認める仕組みはまさに行政法的な制度である。この点、認定法自身は公益の外延を明確に規律しておらず、何が具体的に公益目的事業に当たるかの判断は運用に委ねられている。この点、昨年12月20日決定された「公益認定等ガイドライン」では、公益活動に当たる具体的な類型を列挙する形での対応がとられたが、今後、広く周知されていくなかで、透明性の確保、行政裁量の行使の適正化の観点から、その運用状況が注目されるところである。関連して、当該ガイドラインが民間主体にとっても日々参照されることを踏まえれば、法源としての性格を与えられていないガイドラインがもつ機能に着目した場合における、行政法学の手法論のなかでのガイドラインの位置付けという、より根本的な問題も、興味を惹くところである。
 最後に、本稿はあくまで行政法研究者としての問題意識・私見を雑駁ざっぱくに書き出したもので、筆者の委員(参与)としての見解ではないことをお断りしておく。

 

執筆者Profile
宮森征司(みやもり・せいじ)
新潟大学法学部准教授一橋大学大学院法学研究科博士後期課程修了。同研究科特任講師、(一財)行政管理研究センター研究員、長野県立大学グローバルマネジメント学部助教などを経て、現職。博士(法学)。専門は、行政法・地方自治法。単著として、『自治体事業と公私協働:組織法的観点に基づく公法学的研究』(日本評論社、2023年)。

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