公益法人会計基準の改正で「正味財産増減計算書」は「活動計算書」へ

山下雄次
(やました・ゆうじ 税理士)

 

 

 公益法人会計基準が見直され、「正味財産増減計算書」は「活動計算書」へと変更されます。この変更は、企業会計との乖離を埋め、より分かりやすい財務情報の提供を目指したものです。従来の書式との違いや、新様式の特徴をわかりやすく解説します。

 

1.改正の背景と目的

 これまでの公益法人会計は企業会計と比較して分かりにくいと言われていました。わかりやすい財務情報の開示を実現するために、公益法人特有の会計処理を見直し、「正味財産増減計算書」から「活動計算書」へと組み替えられました。

 

 「正味財産増減計算書」に慣れた方にとっては、「活動計算書」へ変更になったことで、作業効率が下がるなどの意見もあるようです。しかし、公益法人会計に慣れていない方にとっては、活動計算書と3種類の注記情報によって段階的に詳細な情報へ掘り下げていくことができます。概要のみを把握したいのであれば活動計算書の簡潔な記載で目的は達せられます。

 

 一方で、詳細な情報を求めるのであれば、3種類の注記情報で角度を変えた財務情報を確認することが可能となります。活動計算書の作成段階では利便性は認識できないかもしれませんが、役員等への説明の段階になると説明しやすさという利点を体感できると思います。

 

 

2.正味財産増減計算書からの主な変更点

⑴ 活動計算書

 

①指定正味財産と一般正味財産を分けない
 正味財産増減計算書は、財源別に指定正味財産の部と一般正味財産の部を区分していました。指定正味財産の指定を解除し、一般正味財産に振り替えて使用するという流れが、分かりにくいとされていました。活動計算書では財源別の区分は行わないで、法人全体での損益状況を簡潔に把握できるようになっています。

 

②経常活動区分とその他活動区分
 正味財産増減計算書の一般正味財産の部は「経常増減の部」と「経常外増減の部」に区分されていました。これは、通常反復的に発生する取引を「経常増減」とし、それ以外の非反復的・特殊性の高い取引を「経常外増減」として認識していました。
 活動計算書での「経常活動区分」と「その他活動区分」は、経常的な活動として発生した取引であれば、発生頻度が低くても経常活動区分に記載することになります。

 

③事業収益及び事業費は活動別の名称で計上

 

④管理費は総額で計上

 

⑤最終値が当期収益費用差額なので貸借対照表の純資産とは一致しない

 

【活動計算書】


出典:内閣府「第72回 公益法人の会計に関する研究会議事次第及び資料」を基に筆者加工

 

⑵ 内訳書は注記情報

 正味財産増減計算書内訳表に記載されていた会計区分及び事業区分の損益情報は、活動計算書の財源区分別内訳の注記における一般純資産区分について注記することになります。

 

⑶ 財源区分別内訳

 正味財産増減計算書は、財源別に指定正味財産の部と一般正味財産の部を上下で区分していましたが、財源区分別内訳では左右に区分することになりました。
 これまでは指定正味財産の指定を解除し一般正味財産に振り替えて使用するという区分変更が行われていましたが、新会計基準では原則として指定純資産から一般純資産への振替は認められません。
 ただし、資源提供者から使途の制約を受けた資源である指定純資産について、やむを得ない事情により指定された使途に使用できなくなった場合には、指定純資産から一般純資産への振替が認められます。

 

【活動計算書の注記 財源区分別内訳】


出典:内閣府「公益法人会計基準の運用指針 令和6年12月」を基に筆者加工

 

⑷ 会計区分及び事業区分別内訳

 上記の活動計算書の財源区分別内訳注記における一般純資産区分について、会計区分及び事業区分別の内訳を注記します。これまでの正味財産増減計算書内訳表に相当するものとなります。

 

【会計区分及び事業区分別内訳 活動計算書 一般純資産の部】


出典:内閣府「公益法人会計基準の運用指針 令和6年12月」を基に筆者加工

 

⑸ 事業費・管理費の形態別区分

 事業報告に係る定期提出書類の別表F(1)、(2)に相当するものとなります。新基準では、法人会計に計上される管理費の例示が明らかになっています。これまで管理費に計上していた費用の見直しの機会にしていただけると良いと思います。

 

【管理費の例示】

① 社員総会・評議員会・理事会の開催費、理事・監事・評議員に対する報酬、会計監査人に対する監査報酬等のガバナンス費用
② 給与管理、予算作成及び経理、情報技術、人事部門の費用
③ 財務に係る費用

 

【事業費・管理費の形態別区分】


出典:出典:内閣府「公益法人会計基準の運用指針 令和6年12月」

 

3.スケジュールと実務対応

⑴ 適用時期

 新基準は、令和7年4月1日以降に開始する事業年度から適用となります。ただし、令和10年4月1日前に開始する事業年度までは、新基準によらず従前の会計基準を引き続き適用することができます。

 

⑵ 実務対応

 新基準は令和7年4月1日以降に開始する事業年度から適用することになっていますが、多くの公益法人で令和7年度は新基準ではなく、従前の会計基準で処理を行っているようです。
 公益法人会計基準に準拠した会計ソフトでは、令和7年の秋くらいから順次対応するような情報があります。したがって、早い法人でも令和8年度からの適用と考えられます。
 一方で、今回の公益法人会計基準の改正は、様式の変更がほとんどであって、日常業務での伝票起票などへの影響は少ないと考えられます。会計ソフトで集計した結果である残高試算表をベースに、エクセルで決算書の形式に作り替えている法人にとっては、エクセルの様式を変更するだけで済むことも考えられます。決算書の作成がエクセル中心となっている法人にとっては、会計ソフトのバージョンアップは必須ではないかもしれません。

 

4.小規模法人などの負担軽減措置

 公益目的事業がひとつであって、収益事業等がない場合には、「会計区分及び事業区分別内訳」を作成しないことができます。

 

5.活動計算書に関するよくある質問(FAQ)

Q1 活動計算書の新様式にはいつから対応すればよいのですか?
A1 令和9年度までは従来の様式でも問題ありません。令和10年度から新基準が強制適用となるので、令和9年度の下期には対応方法を決めておく必要があると思います。

 

Q2 活動計算書へ移行するにあたり、定款変更の必要はありますか?
A2 正味財産増減計算書は新基準では「活動計算書」という名称となりました。しかし、定款の条文に「正味財産増減計算書」という用語がある場合でも、特段の場合を除き、当然に「活動計算書」に読み替えるものと解釈し、他の定款変更の必要がある機会に合わせて変更すれば問題はありません(ガイドライン第4章第9)。

 

執筆者Profile
山下雄次(やました・ゆうじ)

税理士・行政書士。全国公益法人協会相談室顧問。税理士試験試験委員。平成18年に山下雄次税理士事務所を設立。著書に『チャットでわかる社団・財団の経理・総務の仕事』(全国公益法人協会)等。

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