公益・一般法人の採用・定着に役立つ助成金の活用
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公益・一般法人の採用・定着に役立つ助成金の活用

皆さんこんにちは。島﨑髙偉です。
今回のテーマは「人財の採用定着に役立つ助成金の活用」についてです。

 

人手がいなければ、業務の継続や成長は望めません。特に最近、コロナ規制の緩和に伴い経済が活性化しつつありますが、少子高齢化や人財不足が深刻な問題となっています。
人財不足の原因は多岐にわたりますが、主な対策としては「採用」、「業務の効率化」、「社員の育成」、「職場環境の改善」の4つがあります。

 

人財不足の最も大きな原因は離職であり、多くの採用活動が欠員補充を目的としています。
現在働いている人たちの離職防止とそのための職場環境改善が急務です。

 

また、就業経験が少ないために就職が困難な方や、育児や介護などの理由で就業の機会が限られている方もいます。これに対応するため、政府は就業機会の少ない方々の採用を増やし、雇用の安定を図る目的で、企業や法人に助成金を提供して就業支援を行っています。
さらに、政府は定年の延長や廃止、非正規職員を正規職員に転換すること、長時間労働の削減や年次有給休暇の取得促進などにより、労働環境を改善し、職員の定着を支援しています。

 


 

今回は、人手不足対策の一環として「採用」と「職務改善」に役立つ内容をいくつかご紹介します。
また、昨年11月15日号の『公益・一般法人』に掲載された以下の記事も、あわせてご覧いただくことをお勧めします。【特集】育児休業取得関連の助成金の活用法
【特集】補助金・助成金の申請方法と活用術 ―IT・DX化を促進―

 

 

本記事では、はじめに人財が定着しにくくなった理由と人手不足の原因及び対策の一例をご紹介します。
続いて、採用支援のための助成金3つと人財定着支援の助成金4つを詳しく説明します。

 

なお、今回ご紹介するのは令和5年度の助成金ですが、令和6年度でも大きな変更はないと思われます。
ただし、廃止されるものや新たに追加される助成金もあるかもしれませんので、令和6年度の情報も是非参考にしてください。

1.はじめに

(1)なぜ人財採用・定着が難しくなったのか

人財採用と定着が難しくなっている主な理由を説明します。

 

1.生産年齢人口の現象

まず、生産年齢(15歳から64歳まで)の人口が減少しているため、労働力の絶対数が減っています。

 

2.求職者と求人者のニーズのミスマッチ

さらに、採用する側と仕事を求める側の間にニーズのミスマッチが生じています。
技術の急速な進展により、企業が求めるスキルや技術と、求職者が持つスキルや技術の間にズレが見られるようになっています。
また、終身雇用が難しくなっている点も、現代の人財採用と定着における課題の一つです。

 

3.働く意識の変化

加えて、働く意識の変化も見られます。かつては賃金や労働条件が重視されていましたが、現在は自分の時間を大切にし、ワークライフバランスを重んじる風潮が強まっています。
また、仕事のやりがいや自己成長を求める人が増えています。

 

さらに、多くの転職サイトが登場しており、転職を促進する傾向にあります。
これにより、転職しないと時代に取り残されるかのような印象を持つ人もいますが、必ずしもそうではありません。自分がやりたい仕事を見つけることが重要です。

 

この表は例ですが、今から30年後には現在の生産年齢人口が半減し、8000万人から4500万人近くに減少する見込みです。

 

 

ただし、現在の生産年齢は14歳から64歳までとされていますが、政府では70歳までの雇用努力義務を設ける動きがあります。
そのため、将来的には生産年齢が70歳まで拡大される可能性があります。

 

しかし、いずれにせよ人口の絶対数が減少しているため、人手不足は簡単には解決しない深刻な問題であると考えられます。

(2)人出不足の原因と対策

人手不足の原因は複数ありますが、最も一般的なのは離職による欠員補充の需要が高まっていることです。
加えて、事業が忙しくなり事業拡大を進める中で生じる人員の量的不足も問題の一つです。
さらに、技術進歩に伴うスキルや能力の不足により、質の面での人手不足も生じています。

 

いずれにしても助成金は活用できますが、今日は特に離職問題に焦点を当て、「採用」と「労働環境の整備」の2点を中心に話を進めていきます。

2.今回ご紹介する助成金と申請の要件

採用支援に焦点を当てた助成金と人財定着支援の助成金をいくつかご紹介します。

 

採用支援の助成金

(1)中途採用等支援助成金(中途採用拡大コース)
これは、前年度を上回る採用を行う法人に対して助成がされるものです。
中途採用を積極的に行っている企業を支援することを目的としています。

 

(2)特定求職者開発助成金(特定就職困難者コース)
高齢者や母子家庭の方など、特定の就職困難者を採用する企業に対して助成金が支給されます。

 

(3)トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)
就業経験が少なく就職が難しい方を対象とした採用時に助成金を提供します。
採用はなかなか難しいかもしれませんが、こういった方々を採用すれば助成金も出るし、人財不足も改善できると考えられます。

 

人財定着支援の助成金

(1)キャリアアップ助成金(正社員化コース)
非正規職員を正社員にする取り組みに対し、助成金が支給されるというものです。

 

(2)65歳超雇用促進助成金(65歳超継続雇用促進コース)
65歳を超える高齢者の継続雇用を推進する企業に給付される助成金です。

 

(3)65歳超雇用促進助成金(高年齢者無期転換コース)
まだ定年ではない方を無期転換雇用契約にすると、助成金が支給されます。

 

(4)働き方改革推進支援助成金(労働時間・年休促進支援コース)
法律の変更により、時間外労働の規制が強化されました。
また年次有給休暇の取得も義務化されました。これまでは、従業員が請求することでのみ有給休暇が与えられる体制でしたが、現在は従業員の請求がなくても法人が積極的に提供する必要があります。
このような新しい義務の遂行をサポートし、推進する目的で設定された助成金です。
これも活用しない手はないかと思います。

受給対象となる法人の範囲(すべての助成金に共通)

今日ご紹介する助成金は、基本的に中小企業や中小規模の企業を対象としています。しかし、公益・一般法人の場合は資本金がないため、常用職員の数で適用の有無が判断されます。そのため、おそらくこれらの法人にも全ての助成金が適用されると思われます。

 

 

「常時雇用する労働者数」とは、以下の条件を満たす方々を指します。
1.雇用期間の定めがない方
2.2ヶ月を超えて雇用され、1週あたりの労働時間が通常の職員とほぼ同じである方

 

このような条件を満たす方を対象としていますので、該当する法人さんは是非申請を検討していただきたいと思います。

受給できる事業主

ほとんどの法人が問題なく助成金を申請できると思います。
1.雇用保険適用事業所の事業主であること
2.申請期間内に手続きを行うこと
3.支給のための審査に協力することが挙げられます。

 

本記事でご紹介する助成金には特に厳しい審査はありませんが、所定の手続きを適切に踏んでいるか、基準を満たしているかが重要です。
これらの基準を満たしたうえで、必要な書類の整備と保管、さらにはハローワークから求められたら書類の提出に応じることです。
そして、当然ですが、各助成金が求める個別の要件を満たすことも必須です。

受給できない事業主

あえて助成金を受給できない事業主の条件についてご説明しますが、これはほとんどの法人には関係ないと思われます。
ただし、以下の点に該当する場合は申請ができません。

 

1.過去に不正に助成金を受給し、その不正受給から5年を経過していない法人。
2.労働保険料の未納付がある法人
(現在は納付済みで、過去に遅れがあった程度であれば問題ありません)
3.過去1年間に労働関連法規の違反があった法人
(労働基準監督署の指導に基づき、違反を改善している場合は除きます)
4.風俗関係の業種
5.暴力団関係者 等

 

これらの条件を満たさない多くの法人は、問題なく助成金の申請が可能です。

 

3.採用支援の助成金

(1)中途採用等支援助成金(中途採用拡大コース)

 

 

中途採用等支援助成金は、中途採用を拡大する事業主向けに設けられています。政府は労働力の流動化を図っており、それに対して中途採用で組織の体質強化を図る事業主が対象です。
前年に比べて中途採用率を1年から3年で前年比20%以上向上させると、50万円の助成金が提供されます。

 

45歳以上の方の中途採用率を上げると、1事業所あたり100万円が提供されます。中途採用を中心にして人財を確保している事業主は、是非この助成金の活用を検討してみてください。

 

申請手順ですが、まず中途採用計画書を作成し、それを都道府県労働局に提出します。
中途採用計画書には、労働条件や採用する職種、人数、採用時期などを記載します。「中途採用計画書」というと難しそうに聞こえますが、実際にはそれほど難しいものではありません。

 

そして、中途採用者の雇用管理制度を整備し、実際に採用を行った後、雇い入率が20%を超えた場合、助成金を申請することができます。
この助成金は、1事業所あたり50万円または100万円が提供されます。

 

◆助成の要件
1.(A)中途採用率を計画前3年間より20ポイント以上アップ
助成金を受けるための要件には、中途採用計画書に基づいて計画の前年比で中途採用率を20ポイント以上(20%と考えて良いと思います)増やすことが含まれます。
たとえば、前年に1人の中途採用があった場合は、2人以上の採用を、2人だった場合は3人以上を目指すことで、助成金の条件を満たすことが可能です。(1事業所あたり50万円)

 

2.(B)中途採用率を20ポイント以上アップさせ、うち45歳以上の中途採用率を10%以上上昇させ、かつ45歳以上の職員の賃金を前職比5%以上アップ
中途採用率を20%以上上げたうえで、そのうち45歳以上の方が10%以上を占める場合、助成金は100万円になります。この点も検討の際にご考慮ください。

 

◆補助対象となる職員
補助対象となる職員の方は次の全てを満たすことが条件です。

1.中途採用であること(ハローワーク以外の紹介雇用も含む)
 →対象となるのは中途採用者であり、新卒者は除外されます。

2.雇用保険の一般被保険者(高年齢被保険者)として雇用された人
 →雇用保険の被保険者であることが必須です。これには高年齢者保険者も含まれます。

3.期間の定めのない雇用(除く短時間労働者)
 →雇用形態は期間の定めがないものでなければなりません。ただし、パートタイムの従業員は対象外です。

4.(B)の場合は、雇い入れ時の年齢が45歳以上であること
 →高齢者を雇用する場合?、採用時の年齢が45歳以上であることが条件です。

5.雇い入れ日の前日から1年以内に当該事業所で就労したことがないこと
 →雇用する日の前日から1年以内に該当する事業所で就業していない人であること。

(2)特定求職者開発助成金(特定就職困難者コース)

 

 

◆対象
特定就職困難者とは、60歳以上の高齢者、障害をお持ちの方、また母子や父子家庭など就業が困難な状況にある方々を指します。
このような方を採用すれば助成されるのが「特定求職者開発助成金」です。
ハローワークやその他の職業紹介事業所から紹介され、事業主によって継続して雇用されるケースが対象です。
個人的な紹介による雇用は、この助成金の対象とならず、ハローワークや民間の職業紹介事業者を通じた正式な手続きが求められます。

 

◆雇用対象
また、対象となるのは正規の雇用、無期雇用、そして有期雇用です。
ただし、有期雇用については、本人が望む限り更新可能な、いわゆる自動更新の形態の場合のみが対象となります。期限を設けた有期雇用は、この助成金の対象外です。
また、採用される際の年齢が65歳未満であることも条件ですが、上の表の1に記載の高齢者の場合にはこの限りではありません。65歳以上の方でも、特定求職者開発助成金の対象となる可能性があります。

 

◆助成額
一人当たりの助成額についてです。

補助対象者1に該当するのは、60歳以上の高齢者、母子・父子家庭の親、そしてウクライナからの難民の方々です。

 

この助成金の額は、一年間で以下のように定められています:
補助対象者1の場合、一人当たり60万円。大企業の場合は、一人当たり50万円。
短時間勤務の場合、つまり週の所定労働時間が20時間以上30時間未満の場合、助成額は40万円、大企業に所属する場合は30万円です。
助成対象期間は一年間で、この期間内での雇用を通じて、助成金が支給されることになります。

 

補助対象者2の身体・知的障碍者の方々に対しては、助成金額が倍額になり、2年間の支給期間が設けられます。
具体的には、合計で120万円の助成があり、30万円ずつ4期に分けて支給されます。

 

補助対象者3の重度障碍者の方、45歳以上の障碍者の方、精神的障碍者の方を雇用する場合、助成額はさらに倍となり、合計で240万円が2年間にわたり支給されます。
この場合、40万円を6回に分けて支給される仕組みです。

 

現在の労働市場において、全ての仕事が高度な専門知識を必要とするわけではありません。
障害を持つ方々にも適した職が存在することは確かです。そのため、適切な職業を見つけ、障害をお持ちの方々が活躍できる場を提供することが大切です。
もし、そのような職があれば、積極的に活用することをお勧めします。

 

 

手順ですが、まず、ハローワークに求人表を提出し、対象となる求職者を採用します。
その後、一定期間ごと、具体的には半年(一期)ごとに助成金の申請を行います。
申請が承認され、何らかの不正がないことが確認されれば、6ヶ月ごとに助成金が支給される仕組みです。

 

助成金を申請する際に必要な書類については、決して難しくありません。
所定の申請用紙、賃金を支払った証拠となる台帳、出勤簿、雇用契約書など基本的な書類を提出するだけで手続きが進みます。
手続は、高いハードルではなく、むしろ利用しやすい条件が整っていると言えます。ぜひ活用いただければと思います。

 

(3)トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)

3つめがトライアル助成金についてです。
トライアル雇用助成金には複数のコースがありますが、中でも一般的に利用されているのが一般トライアルコースです。
このコースの主な対象は、職業経験が短い、または不足しているために自信を持てずにいるといった方々です。

 

仕事の経験が不足しているような方でも、実際には適性に合った仕事が見つかれば十分に活躍できるはずです。3ヶ月間のトライアル期間を設けることができ、この期間を通じて、雇用主は求職者の適性を見極め、その後正式に採用するかどうかを決定できます。

 

経験がない、または採用する側にもその人の能力がどの程度なのかわからないといった、両方にとって不確実性の高い状況であっても、最長3ヶ月間のトライアル期間において、お互いにとって最適な結論を出すことができると思います。そのため、この制度の活用を検討する価値は十分にあります。

 

◆本助成金の目的
職業経験不足等で就業が困難な方の雇用を促進すること。

 

◆本助成金の特徴
最長3ヶ月間の雇用期間を通じて、適正あるいは能力を見極めてから採用できること。

 

通常の採用における試用期間と、トライアル雇用助成金を利用した採用には、根本的な違いがあります。
試用期間を設ける通常の採用では、その期間を終えた後の正式採用を前提としています。つまり、試用期間はあくまで正式採用への準備段階と位置づけられているのです。

 

一方で、トライアル雇用助成金を活用する場合は、3ヶ月間のトライアル期間が設けられ、この期間内に雇用主は求職者の適性を評価できます。
このトライアル期間は、正式採用の前提ではなく、評価期間として機能します。つまり、トライアル期間終了時に、求職者の適性が仕事に合わないと判断されれば、雇用関係を終了させることも可能です。

 

◆トライアル雇用の対象者
トライアル雇用の対象者となるためには、以下の条件を満たしており、紹介日に本人が「トライアル雇用」を希望することが必要です。

【対象者の条件】
1.紹介日の前日から過去2年以内に2回以上離職や転職を繰り返している

2.紹介日の前日時点で離職期間が1年を超えている(パートなども一切ない場合)
 →この場合、パートタイムを含むいかなる形態の雇用もしていない方が対象です。

3.妊娠・出産・育児を理由として安定した職業に1年以上就いていない

4.1968年(昭和43年)4月2日以降に生まれ、ハローワーク等で職業指導等を受けている

5.その他、就業支援で特別な配慮を要する方
 (生活保護を受けている方、母子・父子家庭の保護者、日雇い労働者、ウクライナからの方など)

 

◆雇い入れの条件
雇い入れの条件は3つあります。
1.ハローワークまたは民間の職業紹介等を通じて雇入れること
2.原則3か月のトライアル雇用期間を設けること
 →この制度の特徴は、原則として3ヶ月間のトライアル期間を設けることにありますが、これは雇用者と求職者の間での話し合いにより、1ヶ月や2ヶ月といった期間の調整も可能です。
3.トライアル期間中の1週間の所定労働時間が、通常の雇用者と同じ程度に設定されること
 →これにより、トライアル雇用においても実際の職場環境や労働条件のもとでの業務遂行が可能となり、双方が互いに理解し合った上での正式採用へと繋がることが期待されます。

 

◆助成金の額
トライアル雇用助成金の額は、一人当たり月間4万円と設定されています。
ただし、母子家庭や父子家庭の方が対象の場合は、月間5万円になります。
助成金の支給期間は最長で3ヶ月間とされており、支給は1ヶ月単位で行われます。

 

◆手順

 

 

上の表のとおり、トライアル雇用助成金を利用するための手順は、以下のようになります。

 

1.トライアル雇用求人表の提出
 →まず、ハローワークにトライアル雇用求人表を提出します。これにより、法人はトライアル雇用の意向を公的に表明します。

2.面接採用とトライアル開始
 →求人に応募した求職者を面接し、適切な候補者を採用したら、トライアル雇用を開始します。

3.トライアル雇用計画書の作成と提出
 →トライアル雇用を開始した後、法人はトライアル雇用計画書を作成し、これをハローワークに提出します。計画書には、トライアル雇用の目的、内容、期間などを記載されます。

4.トライアル雇用期間の終了
 →トライアル期間が終了した後、法人はトライアル雇用者を無期雇用に移行するか、もしくは雇用期間を終了するかを決定します。

5.トライアル雇用結果報告書の提出と助成金支給の申請
 →トライアル雇用期間が終了したら、法人はその結果をハローワークに報告するための結果報告書を提出します。報告書が受理されると、約束された助成金が企業に支給されます。

 

4.人財定着支援の助成金

人手不足を防ぐための大きな対策の一つとして、職場で一緒に働いている仲間の離職を防ぐことが挙げられます。

 

非正規職員を正社員化したり、無期雇用に移行させること、また職場の環境改善を行うことによって、従業員の定着を促すことができます。
これらの措置は、従業員のモチベーションを高める効果があると考えられます。
たとえば、正社員として安定した雇用状態にあると、従業員はよりモチベーションもあがり、生産性の向上につながるのではないでしょうか。

 

(1)キャリアアップ助成金

 

 

キャリアアップ助成金は、企業が従業員の雇用環境を改善し、特に非正規職員のキャリア形成を支援するために設計された制度です。
この助成金は、従業員の正社員化、賃金の改定、職場環境の向上など、様々な目的に応じて複数のコースを提供しています。

 

具体的には、非正規職員を正社員へと変更する「1 正社員化コース」、障害を持つ有期雇用者を正社員にする「2 障害者の正職員化コース」があり、これらのコースを通じて、雇用の安定と従業員のモチベーション向上を図ります。

 

また、有期雇用者の賃金を3%以上改定することによって支給される「3 賃金改定コース」、正職員と有期職員間の賃金規定を同一にする「4 賃金規定共通化コース」があり、これらは賃金体系を公平にすることで助成金が出るというものです。

 

さらに、賞与や退職金制度を導入することで支給される「5 賞与・退職金制度導入コース」は、有期職員の福利厚生を充実させ、職場の魅力を高めます。

 

最後に、社会保険に加入する際の保険料負担増に対応し、手当支給や賃上げ、労働時間の延長を実施した場合に支給される「6 社会保険適用時処遇改善コース」があります。

 

【正社員化コース】

 

非正規職員よりも正社員として雇用された方が、雇用が安定し、社員や職員のモチベーションが上がると一般的に考えられています。

 

◆対象
有期雇用職員や派遣職員で6ヶ月の雇用期間の職員を正社員に変更した事業所が対象です。
ただ、正社員には勤務地限定や短時間勤務といった多様な働き方も含みます。

 

厚生労働省は、正社員の条件として、かつて「直接雇用であること」「定年まで働けること」「フルタイムであること」の3つを挙げていました。
しかし、現在では「フルタイムであること」という条件が外され、勤務地限定や短時間勤務でも、「直接雇用であること」と「定年まで働けること」といった条件を満たしていれば、正社員化コースが適用されます。

 

◆助成額

有期雇用の職員を正規雇用に変更する場合、その助成金は年間で1人当たり約80万円が支給されます。
また、無期雇用の職員を正規職員に昇格させた場合には、年間で1人当たり約40万円の助成金が支給されます。
さらに、最初の職員が正社員に転換される際に、正社員転換制度や多様な正社員制度を導入すると、それに伴い若干の加算金が助成されます。

 

◆手順
助成金を受け取るための手順として、まずはキャリアアップ計画を作成します。
次に、就業規則などの改定を行います。
そして、非正規雇用時の賃金よりも3%以上賃金をアップさせた上で、6ヶ月分の賃金を支払います。

 

これらの条件を満たした場合、助成金の支給が可能となります。

 

(2)65歳超雇用推進助成金(65歳超継続雇用促進コース)

現在、65歳までの雇用が義務化されています。
そして、70歳までの雇用については努力義務とされており、この年齢までの雇用を促進するための助成金です。

 

◆概要
下記の措置をした事業主に支給されます。

 

1.65歳以上への定年年齢の引き上げ
 →現行の雇用義務が65歳までと定められている中で、定年を60歳から65歳以上へ引き上げた場合、助成金の支給対象となります。

2.定年の廃止
 →最も推奨されているのは、定年制度の完全な廃止です。

3.希望者全員を66歳以降の年齢まで継続雇用する制度の導入
 →政府は現在、70歳までの努力義務を設けていますが、この年齢まで雇用を希望する人を雇用する制度を導入した場合、助成金が支給されます。

4.他社による継続雇用制度の導入
 →自社のみでの継続雇用が難しい場合に他社に依頼し、雇用を受け入れた企業の経費を負担する場合、それを助成する仕組みがあります。

 

◆助成額は、助成内容と、非保険者数によって異なります。

 

1.定年の廃止または引き上げ

定年の廃止、または定年を引き上げた場合、1人から3名の場合は15万円、10人以上の場合は30万円が支給されます。
この人数は60歳以上の非保険者の方が対象です。

 

また、定年年齢を66歳から69歳まで引き上げた場合、年齢を上げた差に応じて、1人から3名の場合は20万円から30万円、10人以上の場合は35万円から105万円までの助成金が支給されます。

 

定年を70歳から70歳以上に設定した場合、助成金は30万円から最大105万円まで支給されます。

 

そして、定年の廃止が行われた場合、40万円から最大160万円が支給されます。

 

これから生産年齢層の減少が進む中で、高齢の方をどのように活用するかが重要です。
また、高齢の方は、若年層の方よりも豊富な知識、経験、人脈を持ち、高い勤労意欲がありますし、ぜひこの助成金を活用していただきたいと思います。

 

2.希望者全員を対象にした66歳以上の年齢まで継続雇用する制度

 

66歳以上の年齢まで希望者全員を継続雇用する制度を設けた場合、その人数と年齢に応じて、15万円から100万円までの助成金が支給されます。
現在おられる60歳以上の方の年齢と人数を考慮しながら進めていただければ良いと思います。
このような取り組みも、雇用の安定につながると考えられます。

 

3.他社による継続雇用制度の導入

 

自社での高齢者雇用が難しい場合に他社に依頼して雇用を引き受けてもらった際は、費用の半分を助成してもらえます。支給額の額は66歳~69歳なら10万円、70歳未満から70歳以上は15万円となります。

 

◆手続
1.定年延長等の制度を導入(改訂)した就業規則を労働基準監督署に届け出る

 

2.当該措置を実施した翌月から4か月以内の(月初5開庁日)までに申請書を「(独)高齢者・障害・求職者雇用支援機構」に提出

 

手続きとしては、定年延長の制度を導入した際の改定した就業規則を労働基準監督署に届け出ます。
そして当該措置を実施した月から4か月以内の(月初5開庁日)までに申請書を高齢者・障害者・求職者雇用支援機構に対して申請書を提出することで、助成金を受け取ることが可能となります。

 

(3)65歳超雇用推進助成金(高齢者無期転換コース)

 

65歳以上の方は無期転換コースの対象となりますが、この制度は50歳以上で定年未満の方が対象となります。

 

ただし、「5年転換ルール」の適用外であることが条件となります。
現在、有期雇用契約には「5年転換ルール」というものがあり、これは無期雇用で5年間継続して働いた場合、労働者の申し出により無期契約への転換が可能となる制度です。しかし、この無期転換コースの対象となるためには、この「5年転換ルール」の適用外であることが条件となります。

 

◆支給要件
無期転換計画書を(独)高齢・障害・求職者支援機構に提出し、認定を受けることが支給要件となります。
また、就業規則あるいは転換規定などを規定の中で決めることが必要です。

 

この場合、高年齢雇用推進者が必要となり、高齢者雇用管理に関する処置を講じることになります。

 

一見難しそうに感じるかもしれませんが、具体的には職業訓練の実施、健康管理と安全衛生への配慮、勤務時間の弾力化などが含まれています。
これらは、必ずしもハードルが高いわけではないと考えられます。

 

◆無期転換の要件
無期転換の要件については、以下の全てを満たす必要があります
1.計画期間内に無期転換を行うこと。
2.転換後6ヶ月以上継続して雇用し、6か月分の賃金を支払ったこと。
3.支給申請日において無期転換計画を継続していること。
4.転換した職員を65歳以上まで雇用する見込みがあること。

 

◆支給額
支給額については、中小企業の場合、48万円が支給されます(大企業は38万円)。
ただし、対象となるのは最大で10人までです。

 

◆支給の手続
手続きに関しては、無期転換を実施し、その後賃金を支払った日から2ヶ月以内に各都道府県の(独)高齢・障害・求職者支援機構へ申請を行う必要があります。
これらの基準を満たしていれば、助成金を受け取るためのハードルは特に高いものではないと言えます。

 

(4)働き方改革推進支援助成金

昨今、労働時間の制限が厳しくなっています。
また、年次有給休暇の取得促進も強化されており、年次有給休暇の取得は義務化されました。

 

労働時間の制限の厳格化や年次有給休暇の取得義務化など、これらに取り組む法人に対し、次のような取り組みをすることで支給される助成金です。

 

◆助成対象の取り組み
助成金を受けるためには、以下のいずれか一つ以上の取り組みを実施する必要があります。
・労務管理担当者や労働者への研修
・就業規則や労使協定などの作成・変更
・人財確保への取り組み、労務管理用ソフトウェアの導入 等

 

◆成果目標
以下のいずれか一つ以上の取り組みを実施する必要があります。

・(目標1)時間外労働および休日労働の削減
 →時間外労働と休日労働の合計時間数を60時間以下に設定すること。
 ただし、この時間数が80時間以下である場合も目標として認められます。

・(目標2)年次有給休暇の計画的付与制度の新設
 →労働者が年次有給休暇をもっと利用しやすくなるよう、計画的付与制度を新たに設けることです。

・(目標3)時間単位の年次有給休暇、特別休暇の導入
 →時間単位での年次有給休暇を導入することに加えて、病気、教育、ボランティア活動などのための特別休暇を新たに設ける場合、助成金支給の対象となります。

 

◆助成額
これらの取り組みにかかった費用の3/4が助成されます。
例えば、
目標1に取り組んだ場合、助成金は100万円から200万円の範囲で設定されています。
目標2と3については、上限が25万円です。この他にも細かな基準に応じた助成が存在します。
賃金の引き上げを行った場合、常用職員の数と引き上げ率に応じて、1人あたりの上限が約16万円、全体としては最大480万円までの助成が可能です。

 

◆手続き
交付申請書を都道府県の労働局に提出し、その後実施を行うことで、助成金の支給を受けることができます。

おわりに

今日お伝えした内容は、助成金のうちの、ほんの一部です。
令和5年の雇用・労働分野の助成金の案内をみると、約70種類の補助金・助成金が存在しています。
ただし、今回ご紹介したものは、その中でも特に効果が見込める、または導入しやすいものを選んで説明したつもりです。

 

今回のテーマでもある人手不足対策の基本は、採用活動に先立って離職者を出さないようにすること、すなわち定着の促進にあると考えられます。
そのためには、働きやすく、安心感を提供し、やりがいのある職場を作ることが重要です。
このような職場環境を構築する鍵となるのが、労働時間、人間関係、労働条件、職場の環境など、労働者の満足度に直結する要素ではないでしょうか。

 

職場環境の改善を行うことで、応募者の増加と、特に優秀な人財の採用及びその定着につながると期待できます。

 

求人活動にかかる費用と時間は、法人にとって大きな負担となることがあります。
今回ご紹介したような助成金や補助金の活用は、求人活動の幅を広げ、効率的に活動ができ、コスト削減につながるとともに人財を確保しやすくなるでしょう。
是非、助成金、補助金等を効果的に活用していただけたらと思います。

執筆者Profile
島﨑髙偉(しまざき・たかひで)
神奈川県在住
社会保険労務士・中小企業診断士。シマザキ人財コンサルティング代表。経営革新等認定支援機関「NPO 厚木診断士の会」会長。
経営計画の策定、補助金・助成金の申請支援、人財育成・人事制度構築など経営諸課題解決を通じ企業・法人改善・強化を支援している。『公益・一般法人』にて「労務管理なんでも相談」を連載中。
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