社会・ステークホルダーの視点を
一層踏まえた公益法人改革を

石津寿恵
(いしづ・としえ 明治大学教授・公益社団法人非営利法人研究学会理事)

 

 自然災害、国際紛争、感染症、格差、貧困など社会全体で捉えるべき社会的課題が山積する現在、非営利組織の活動への期待は一層高まっている。現在の経済政策である「新しい資本主義」の中でも、公益法人が社会的課題に取り組む事業を継続的・発展的に実施できるよう制度改革が進められ、3月には関連法案も提出されて、国会での審議が注目される。
 この改革は、財務規律の弾力化など公益法人にとり「使いやすい制度」という方向のもので、その結果として社会的課題解決のためのサービス提供が充実されれば社会にとって好ましい。しかしながら、この方向は特に大規模法人、企業財団などの法人側には、活動の自由度が高まり、資金流入も期待でき、メリットも大きいが、他方、そういった法人以外の多様なステークホルダーの立場から考えたとき、幾つか留意すべき点があると考える。
 1つ目は「小規模法人へ意識を払うこと」である。財務規律の緩和により収支差額が大きい法人などはさらなる事業拡大の方向に進むだろう。しかし公益法人には小規模法人が多い。ミッションを大事に地域活動をする組織がそのパワーに埋もれ吸収されない、また、取り残されない支援を併せて行う必要がある。
 2つ目は「財務規律の緩和と税制優遇のバランス」である。非営利である公益法人は、その特徴として「無償、格安で公益サービスを提供し、受益者を広げる」点があり、そして配当を行わない。これが税制優遇を受ける根拠ともなる。このため財務規律の緩和に当たっては税制優遇とのバランスに一層気を配ることが重要である。これは、納税者や同様のサービスを提供しながら税制優遇を受けない他の法人形態の理解を得て活動を推進するために重要なことである。
 3つ目は「利用者視点の情報開示」である。法人情報のプラットフォーム整備に当たっては「利用者のための開示」の視点が重要である。今回、寄付増に期待するならば、事後情報開示の充実は勿論のこと事前情報 (行おうとすること) 開示の拡充も寄付意思決定には必要であるし、同様サービスを提供する他法人形態の情報を一元的に比較可能なシステムの構築は有用と考える。また、海外からの寄付を視野に入れたコンテンツの開発も期待される。  社会、ステークホルダーからの理解を得てこそ、公益法人全体としての持続的発展を望むことができる。そして、非営利組織のリーダー的位置づけである公益法人の改革は、他の法人形態や社会に与える影響が大きいことにも十分に意を払って改革を推進してほしい。

執筆者Profile
石津寿恵(いしづ・としえ)
明治大学大学院経営学研究科博士後期課程修了、博士(経営学)。参議院常任委員会調査員(国家公務員)等を経て現職。国土交通省独立行政法人評価委員、厚生労働省中央社会保険医療協議会委員、会計検査院情報公開・個人情報保護 審査会委員、公益法人会計検定試験委員等を歴任。非営利組織関連著作に『非営利組織会計の基礎知識―寄付等による支援先を選ぶために―』(白桃書房)等。

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