制度改革が目指す未来
ー公益法人に期待される新たな「公」の役割ー
聞き手●出口正之
本年 5 月14日、「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の一部を改正する法律案」及び「公益信託に関する法律案」が衆議院本会議にて全会一致で可決、成立した。この改正は、公益法人が社会に果たす役割をさらに推進するための重要な改革である。
今回は、平成18年と令和 6 年の 2 度にわたり公益法人制度改革を牽引された後藤茂之議員に、法改正の背景や意義、今後の展望についてお話を伺う。歴史的な節目を迎えた公益 法人制度の未来はどうなるのか──。
2 度の改革を経て
───今回、国会で全会一致によって公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の一部を改正する法律及び公益信託に関する法律が可決成立しました。まずは、その感想をお聞かせいただけますか。
今回の法案が全会一致で可決されたことは、本当に意義深いことです。民間営利部門が「公」として社会的な価値を創造し、社会的課題を解決していくという役割を果たすことが重要であり、これは国策としても非常に重な位置づけです。
今回の改革は、公益法人制度や新しい「公」の役割を担う社会の発展にとって大きな後押しになると思います。
有識者会議で 8 か月間の検討を経て結論を出し、法案化するまで本当に多くの努力が必要でした。事務方の皆さんの頑張りに感謝しています。
───後藤先生が、内閣府主催の対話フォーラムにビデオ出演されたときの満面の笑顔がとても印象的でした。あのような笑顔を政治家の先生が見せるのは、私としても初めて見たように思います。
そうでしたか。普段から笑顔を大事にしているつもりです。コロナ禍では厚生労働大臣として、なかなか笑顔を見せる場面が少なかったものの、今回の公益法人改革を担当している時はもう少し笑顔があったと思います。
───後藤先生は平成18年の公益法人制度改革時に自民党行政改革推進本部事務局長として関わっています。今回の改革では担当大臣でしたが、運命のようなものは感じましたか。
運命というほどではないですけれど、平成18年の制度担当者として、それ以来の大改革を担当するということで、大きな責任を感じました。また、報告の取りまとめや国会提出など、とにかく最短でやり抜くということで、有識者会議も 8 か月の短い時間でまとめていただきました。そういう意味では感慨深いし、 しっかりやらなければなと思っていました。
平成18年の改革との違い
───平成18年の改革は110年ぶりの大改革で、立法趣旨をはじめ、内容においても素晴らしかったと思います。後藤先生はどのようにお感じになっていましたか
制度的には、まずは法人格の取得を準則主義(登記)として公益性の判断から分離し、その上で公益社団法人・財団法人となるには別途、公益認定の制度を適用する形としました。さらに公益事業を推進するためのインセンティブとして寄附金税制を導入しましたが、これは当時の公益法人関係者を驚かせたと思います。
また、一般社団・財団法人には従来の法人税の考え方を適用しつつ、公益、共益、収益を明確に区分して 3 階建てで税制を整理したことが大事だったと思います。
それから、特に画期的だったのは、事業ごとに公益認定・移行認可する制度を導入したことです。これによって、みなし寄附金制度や公益目的支出計画、公益目的事業財産などの仕組みが可能になりました。例えば、旧公益法人から一般法人へ移行する際に旧民法下では残余財産を国や地方公共団体、もしくは類似の公益団体に寄附することが求められましたが、公益目的支出計画を作っておけば、財産を公益活動に引き続き使用できるようにしました。この制度がなければ公益法人改は成功しなかったかもしれません。
それから、当時、公益法人が問題を多数抱えて改革が必要だったこと自体は、主務官庁制を廃止し、新しい公益法人の考え方や制度を作るうえでは追い風でした。
これらのことから、平成18年の改革は、公益性のある法人の一層の活動の活性化をねらって改革がなされた「将来期待型」の改革 だったと思います。
───旧公益法人の移行という大問題の解決策の発案者は後藤先生だったのですね。次に今回の改革に移りますが、今回も「将来期待 型」の改革という側面が色濃く出ているように思います。今回の有識者会議、法改正の過程で、一番苦労されたこと、あるいは一番うれしかったことは何でしょうか。
公益性を確保しながらも、財務規律の緩和により公益法人の活動の柔軟性を高めるという課題は、非常に難しい論点でした。それだけに法改正に至ったことに達成感があります。 もちろん、短期間で議論をまとめていただいた有識者会議の委員の皆様や事務局の尽力に感謝しています。それから、国会において全会一致で可決されたことも、大変うれしかったですね。
───有識者会議の報告書では、平成18年の改革が「必ずしも良くなかったから改革する」という文脈になっています。今回の改革にあたり前制度をいったん批判せざるを得なかったわけですが、法制度又は運用が悪かったのか、あるいは別の要因もあったのでしょうか。
私の考えでは、やはり誤った運用が生じたのは、曖昧な規定や制度が原因だったと思います。曖昧な部分があると、どうしても解釈の違いが生じてしまい、誤った運用につながることになります。そのため、制度をもう少し明確にしていく必要がありました。
例えば、収支相償についてです。平成18年当時は「公益目的事業の実施に要する適正な費用を超える収入を得てはならない」という漠然とした規定でした。これが「儲けてはいけない」とか「黒字が出てはいけない」という、運用面での不透明さにつながったのです。
だから今回の改正では、黒字・赤字を繰り越して収支均衡を 5 年で達成する中期的収支均衡というものを制度として明確にしました。 これによって、運用面での曖昧さを解消しようと考えました。
また、コロナ禍で見られた事業が悪化している法人や、新しい課題に対応するための公益目的事業継続予備財産や公益充実資金といった制度も導入しました。今回はしっかりと適切な運用ができるように制度も変えていくべきと考えましたし、哲学を明確にする制度改正だったと思います。
民間に期待すること
───今回の改革で民間に期待すること、行政庁に期待すること、あるいは国、地方の公益認定等委員会の委員に期待することはありますか。
民間に期待することとしては、公益法人をはじめとした「公」の役割が今後ますます重要になると思うので、積極的に事業展開を進めていただきたいと考えています。公益法人、 公益信託、NPO法人など、それぞれの役割とニーズに合わせて対応する制度があります。 民間が積極的に社会課題の解決や、社会的価値の創造を「公」という姿勢で取り組むことが重要です。公益法人としての本来の役割をしっかりと果たしていただきたいと思います。
そして、行政庁や公益認定等委員会に対しては、民間の公益活動の意欲を削がないように、できる限り弾力的で実態に即した運用をしてもらいたいと思います。
───2度の公益法人制度改革に関与するということは、歴史的なお仕事だったと思います。そのような満足感はありますか。
満足感と言うとちょっと気恥ずかしいですが、平成18年以来の大改革に大臣として取り組めたこと自体が大変感慨深いと思っていますし、逆にそういうチャンスを与えられたことはありがたかったと思います。あとはぜひ、法人の皆さまに新制度をうまく活用していただきたいというふうに思います。
───ちなみに今回の法改正に点数をつけるとしたら何点くらいでしょうか。
及第点は当然いただいていると思いますけれども、どうやって実践していくかという課題や検討はこれからも続くという意味で100点満点と言ったらいけないと思います。ここはぐっと気持ちを抑えて90点かな。
───ありがとうございます。それでは最後にこの法改正を受けて公益法人の関係者へのメッセージをいただけますでしょうか。
先ほどから何度も言っているのですけれども、公益法人、公益信託という民間の「公」の役割を大いに担っていただいて、社会的課題解決や本当に新しい社会的価値の創造に大いに貢献していっていただきたいと思います。
───なにかすごく良いモデルが次々出てくるといいですね。本日はありがとうございました。
国立民族学博物館名誉教授、元内閣府公益認定等委員会常勤委員、本誌編集委員長。主な著者・共著に『公益認定の判断基準と実務』、『フィランソロピー』、『フィランソロピー税制の基本的課題』、新編著に『会計学と人類学のトランスフォーマティブ研究』等。
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