公共哲学から考える公益法人制度改革

白山真一
(しらやま・しんいち 宇都宮大学データサイエンス経営学部教授)

 

 今般の公益法人制度改革では、多様な市民社会のニーズに応じた社会的課題解決のため、機動的対応が困難な行政部門や利益分配を目的とする民間営利部門の限界から、公益法人が「公」としての役割を果たすことが期待されている。このため、より柔軟・迅速で効果的な公益的活動を自主的・自律的な経営判断の下で実施できる仕組みが模索された。官・民とは異なる「公」という概念は従来からのものであり、これに昨今流行のキーワードである「多様な市民社会のニーズに応じた社会的課題解決」という概念を加えたものが、今般の改革であるともいえる。しかし、官も民もこのキーワードを標榜して日々活動している訳であり、組織上の限界からのみではなく、各主体の本質的な社会的機能の観点から、その役割分担を考えるべきではないだろうか。この点について、公共哲学の雄である、ジョン・ロールズの見解を参考に考えてみたい。
 ロールズの「公正としての正義」論は、伝統的な社会契約説を現代社会構造に適合させ新たに再構築した成果として、第1原理と第2原理から成る。第1原理は、各人は平等な基本的諸自由の最も広範な制度枠組みに対する対等な権利を保持すべきであるというものであり、諸自由が平等に分かち合われるべきだとする見解である。第2原理は、不平等が最も不遇な人びとの最大の便益に資するようにすること(格差原理)と、公正な機会均等の諸条件の下で全員に開かれている職務と地位に付帯するものだけに不平等がとどまるようにすること(公正な機会均等原理)から成る。人々が社会の本来あるべき秩序・規範を討議・決定する際の判断基準となるのが格差原理である。また公正な機会均等原理は、自然的自由システムにおける機会の形式的平等がもっている欠陥を是正することに意義がある。 
 以上の考え方からすれば、社会的課題解決のため、行政部門は社会活動の基盤を構築する役割として第1原理を実現する主体、民間営利部門は市場における自由で公正な競争により付加価値を創出する役割として第2原理のうち公正な機会均等原理を実現する主体となる。しかしこの2部門の機能では「公正としての正義」を実現するための条件を満たさない。そこで、多様な市民社会のニーズの実現過程に存在する「格差」について、最も不遇な人々の便益の最大化によって社会的課題を解決する格差原理を実現する主体として、公益法人の機能が措定そていできるのではないか。このような本質的観点から公益法人制度改革に向き合うことも有意義であると考える。

執筆者Profile
白山真一(しらやま・しんいち)
宇都宮大学データサイエンス経営学部教授。公認会計士・中小企業診断士等の資格を保有し、実務的観点及び会計理論的観点から、政府会計・非営利組織会計を中心とする各種研究を実施。現在、国土交通省政策評価会委員、総務省電気通信紛争処理委員会特別委員、JICベンチャー・グロース・インベストメンツ株式会社監査役、国立研究開発法人日本医療研究開発機構監事、(一社)日本STO協会監事等を兼務。

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