認定法施行令改正による、キャッシュ・フロー計算書作成の義務化
―会計監査人設置義務やキャッシュ・フロー計算書作成義務はいつからか―

居関剛一
(いせき・こういち 公認会計士)

1 キャッシュ・フロー計算書の作成義務に注意

令和7年4月1日に新制度が施行され、会計監査人設置義務の基準が引下げられたことは公益法人関係者の多くは知っていると思われるが、それでは「いつから引き下げられるのか」について明確に理解している人が少ない。 さらに、会計監査人設置義務法人になるとキャッシュ・フロー計算書の作成が義務化されることもあまり知られていないようだ。

今回の改正により新たに会計監査人設置義務法人となった法人は、令和6年度分よりキャッシュ・フロー計算書の作成が義務となることに注意が必要である。

そこで今回は、注意喚起の意味合いを込めて、改めて説明することとする。

2 会計監査人についての改正

会計監査人設置義務の基準の引下げの概要は以下のとおりである。

出典:内閣府大臣官房公益法人行政担当室「新公益法人制度説明資料」

3 最終事業年度の定義

最終事業年度は、法人法において以下のように定義されている。

計算書類について定時社員総会(又は定時評議員会)で承認(又は報告)された場合における当該事業年度のうち最も遅いもの(法人法第2条第2項)

よって、新制度の施行日(令和7年4月1日)における最終事業年度とは、3月決算の場合は令和5年度(令和6年3月期)、12月決算の場合は令和6年度(令和6年12月期)になる。(以下、3月決算の場合で説明を続けることとする。)

4 会計監査人設置義務

最終事業年度である令和5年度(令和6年3月期)が基準を超えている場合、翌事業年度の令和6年度(令和7年3月期)に対して会計監査人の設置が義務となり、新制度の施行日(令和7年4月1日)に会計監査人が設置されていないと一義的には法令違反となる。

しかし、現実的には、会計監査人選任のための臨時総会の開催、さらに監査を引き受ける会計監査人を見つけることが容易でないであろうことからか、ガイドラインにおいて以下のように説明されている。

新制度の施行日(令和7年4月1日)から新たに会計監査人を設置する義務がある法人は、就任前の事業年度を対象とする監査を適切に行うことができない等を理由に、会計監査人の選任及び設置を直ちに行うことが困難となる場合も想定される。 これらを踏まえ、会計監査人の設置に係る監督については、法人に対し会計監査人の選任に係る手続の状況や選任までの見通しなどについて説明を求めることとし、法人の置かれた状況や諸般の事業を考慮して行うこととする。

一義的には法令違反となることから、行政庁に対して説明が必要となり、場合によっては指導監督の対象となってしまうのである。

5 キャッシュ・フロー計算書の作成義務

キャッシュ・フロー計算書は、公益法人会計基準(旧基準、新基準とも)において、会計監査人設置義務法人以外の法人は作成しないことができるとされている。つまり会計監査人設置義務法人はキャッシュ・フロー計算書の作成が必要になる。

前項で説明したが、3月決算で考えると令和5年度(令和6年3月期)が基準を超えている場合、翌年の令和6年度(令和7年3月期)に対して会計監査人の設置が義務となり、実際に会計監査人を設置できたか否かに関わらずキャッシュ・フロー計算書の作成も義務となることに注意していただきたい。

なお、会計監査人設置義務の基準に達していないが、法人が自主的に定款で会計監査人を設置している場合は、この会計監査人設置義務法人に該当しない。

また、既に外部監査を受けている公益法人のうちの多くは、会計監査人設置義務の基準(改正前基準)に達していないものの自主的に定款で会計監査人を設置しているケースであるようだ(キャッシュフロー計算書については、義務でないので作成していないケースと、義務でないが自主的に作成しているケースがある)。

これらの法人のうち今回の基準引き下げによって会計監査人設置が義務となった場合、キャシュフロー計算書の作成が義務となり、キャッシ・フロー計算書は会計監査人が監査する書類にも該当することに注意が必要だ。

6 定款の改正

会計監査人設置義務法人になれば、関係する定款の条文の追加や改正が必要になる。ただし定款より法律が優先させるため、定款改正前であっても会計監査人設置義務やキャッシュ・フロー計算書の作成義務に関して影響がないことにも注意していただきたい。

執筆者Profile
居関剛一(いせき・こういち)
大手監査法人勤務後、東京・赤坂に居関公認会計士事務所を設立。多くの公益・一般法人のサポートを行う。日本公認会計士協会東京会常任幹事/非営利・公会計ユニット担当(令和 4 年度〜現在)。内閣府 新公益法人制度に係る相談員(平成22年度〜現在)。東京都公益認定等審議会専門委員(平成31年度〜現在)。(公社)日本看護協会監事(令和元年〜現在)。(公財)日本社会福祉弘済会監事(平成24年〜現在)。

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