内閣府公益認定等委員会事務局長 高角健志氏
公益二法の施行に向けて─新制度をどう活用するか─
(たかつの・たけし
聞き手●出口正之
昨年5 月に成立した「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の一部を改正する法律」が本年4 月から、「公益信託に関する法律」が来年4 月(予定)から施行される。内閣府で法改正の実務を担ってきた高角健志氏に改革の趣旨を改めて伺い、制度設計に携わった立場から、制度の活用・周知の大切さを語っていただいた。これから新しい制度はどう受け入れられていくのか──。
民間公益活動のさらなる活性化
───明けましておめでとうございます。まず、高角さんと公益認定等委員会事務局とのこれまでの関わりをご説明いただけますか。
私は1994年に旧総務庁(現在の総務省)に入りまして、2011年から3 年間、公益認定等委員会事務局に在職しました。当時は、旧制度からの移行期間の終了(2013年)を見届け、また公益法人の監督の仕組みの立ち上げ等を行いました。その後、地方分権や行政評価等の部署を経て、一昨年の1 月に、今回の制度改革担当の参事官として約10年ぶりにこの事務局に戻って来ました。直前にまとめられた「新しい時代の公益法人制度の在り方に関する有識者会議」の中間報告(2022年12月26日)を受けて、当時の北川局長の下で具体的な制度設計の仕事に携わり、その年の7 月に次長、昨年の7 月に事務局長となりました。
───改正法のガイドラインでは、法改正の目的や規制の趣旨などにかなり力を入れて記載がなされていたように思いますが、いかがでしょうか。
細部の制度設計や今後の制度運用において、判断に迷ったときには、常に制度改正の目的に立ち返って考えないといけないと思ってい
ます。それは一言で言うと、「民間公益活動の活性化」です。
様々な社会的な課題の解決への取組みを成長のエンジンにしていこう、というのが「新しい資本主義」の一つの考え方なのですけれども、その中で、民間の非営利部門、とりわけ公益活動の担い手としての公益法人が、社会の変化に柔軟・迅速に対応し、より効果的に公益活動を展開していく、そういうことができるように制度を見直すものです。
法人の自主的自律的な経営判断がより尊重される仕組みとすること、その一方で公益法人への信頼を確保すること。こういった観点から、この制度改革に取り組んでいます。
法人の自由度と透明性のバランス
───法改正や会計基準改正にあたって、特に苦労した点はどんなことでしょうか。
この改革では、法人の自由度を拡大することが一方にあって、もう一方には法人のガバナンスと透明性を向上して信頼性を高めるという両面があるので、そのバランスをいかに取っていくのかということが重要なポイントでした。北川前局長も申し上げたように(本誌No.1099号掲載の特別インタビュー)、公益法人のためだけの改革ではなく、国民のための改革であるために、両方の要素をいかにバランスよく実現していくかということを常に考えていました。
会計基準に関して少し付け加えると、今回の改革における財務規律の柔軟化・明確化に伴って、財務情報の開示はしっかりしていく必要がありますし、さらに言えば、公益法人のステークホルダーにも様々な広がりがある中で、できるだけ「わかりやすい」財務情報の開示を進めていきたい、ということで、今回、大きな見直しに踏み切らせていただきました。
───本誌でも取り上げましたが、中間発表や資料の即時公開など、外部へできるだけ早い情報提供をしようという姿勢が明確に感じられました。こういった点は強く意識されていたのでしょうか。
法案の国会審議の際に、内閣府令等の策定に当たっては広く国民の意見を聴取し運営実態等を十分踏まえること、という附帯決議もなされています。内閣府としても、有識者会議のフォローアップ会合という形で最終報告後の検討状況を公開するなど、できるだけオープンな形で検討を進めてきました。ガイドラインの見直しについても、研究会を立ち上げ、現場の声も取り入れながら、「素案イメージ」の段階で意見募集をするなど、意識的にオープンなプロセスで進めてきたつもりです。
行政内部でしっかり案を詰めた上で対外的に公表するというのが、私自身も若い頃から仕込まれてきた行政の仕事の普通のやり方なのですが、そうではなく、検討途中のものでもさらけ出して進めていく。これは、限られた体制で短期間で検討を進めていく上でそうせざるを得なかった面もあるのですが、検討プロセスが可視化されることのメリットもあるのではないかな、というふうに考えております。
迅速な情報提供と広報の重要性
───検討プロセスの可視化は大変素晴らしく、大英断だと思います。まさに令和時代にふさわしい政策決定プロセスではないでしょうか。
今回のガイドラインは、法の趣旨、チェックポイント、FAQ、監督のあり方あるいは行政手続法の関係箇所までひとまとめにしたということで、利用者からすると情報にアクセスしやすくなったという面があると思います。一方で、量に圧倒されて、当然不満も出てくるかと思いますが。
今回、ガイドラインを見れば全部わかるという形にしようということで見直しをしたのですが、その結果、ガイドラインが非常に分厚いものになりました。
このガイドラインの内容を分かりやすくお伝えする。それだけではなく、今回の制度改革で何がどう変わるのかということをはじめ、公益法人や公益法人制度について、法人関係者に止まらずもっと広く知っていただくために、様々な広報活動を進めていく必要があると考えています。
そのために、YouTubeなども積極的に活用していこうということで、昨年夏に、公益法人ってどんなものなんでしょうかという一般向けの動画や、今回の制度改革って何が変わるんでしょうかということを簡単に紹介した動画を作ってみました。
法案提出や国会審議のプロセスで様々な国会議員の方ともお話する中で、公益法人や公益信託が世の中一般にはあまり知られていないということを改めて感じました。公益法人の活動をまず知っていただくことが、この制度が国民の支持の上に成り立っていくためのベースとなる。そういう広報活動の重要性を肝に銘じて、しっかり取り組んでいきたいと思っています。
制度改革とともに意識改革を
───公益法人に関しては、残念なことに、本来しっかりと関心を持つべき理事や監事といった層が無関心なケースが多く見受けられます。都道府県を含めて行政庁職員その他関係者への周知というのはどのように考えていらっしゃいますか。
職員の意識改革も、今回の制度改革においては非常に重要な要素だと考えています。内閣府の中の話をまず先にすると、制度改革に伴ってこれまでの業務のあり方も見直してい く必要がありますし、組織体制も含めて見直していきたいと思っています。
また、様々な機会を捉えて各地に足を運んで、都道府県の委員や職員の皆様にも制度改革の説明をし、意識の共有を図っているところです。新しいガイドラインには、行政の事務処理の原則についても盛り込んでいます。そんなことまで書く必要があるのかというご意見もあると思いますけれども、あえて書き込んだのは、制度が変わるだけではなくて、行政庁のマインドも変えていかなければいけないという思いの表れだ、というふうに受け止めていただければと思っております。
新制度をどう活用するか
───既存の公益法人や、今後公益認定申請を行おうと考えている一般法人への期待はどのようなものがありますでしょうか。
まず既存の公益法人ということでいうと、財務規律も普段から問題なくクリアできているし、従来から同じことだけを行っているような公益法人にとっては、情報開示やガバナンスの部分だけが上乗せになって、新制度のメリットをあまり感じられず、負担だけ重くなったと受け止められる心配もあるかな、と思っています。逆に、公益法人が新たな挑戦をしようという時にこそ、新制度のメリットが大きく活きるわけです。
もちろん行政庁が個々の法人に対して「あなたは、こういうことをやるべきだ」みたいなことを言うべき立場ではないのですが、公益法人が様々な社会の変化に対応して、新たな事業展開をしていくとか、公益法人としての成長や発展を考えていく。あるいは、今行っている事業でも公益活動としてより効果的なやり方を考えて取り組んでいく。このような取組みが広がって、公益活動の活性化につながってほしいというのが私どもの願いです。そういうことができる制度にしたと自負しておりますので、ぜひ活用していただきたいなと思っています。
また、旧制度からの移行の時に公益法人を選ばなかった法人も多数ありますし、新規の一般法人もどんどん増えている中で、今回の改革というのは、公益法人の間口を広げる効果もあると考えています。
今後、新規の公益認定がどこまで劇的に伸びるのか、というのはなかなか容易なことではないかもしれませんが、今までの新規認定数のトレンドを少しでも上向きにしていければ、というのは制度を所管する内閣府としての率直な思いです。志のある法人にはやはり公益を目指していただきたいなと思いますし、それがより実行しやすくなる仕組みにしたつもりですので、その点もアピールしていきたいと思っています。
───そういう意味では、2006年の改革で主務官庁制度はなくなりましたが、主務官庁文化のようなものが残ってしまっており、公益法人としては挑戦とはほど遠く、前年と同じことをつつがなく行うことが最適解となってしまう土壌があるように思います。
したがって、法改正の「魂の周知」といいますか、そういった点について中間支援団体や本誌に対する期待というのはありますでしょうか。
今回の制度改革は、中身も非常に複雑で多岐にわたっているので、理解をしていただくためには、あらゆる手段を活用したいと思っております。行政からの発信だけでは限界もありますので、制度改革の趣旨を十分に理解していただいている中間支援団体や専門メディアのご協力をぜひお願いできればと思います。特に、公益法人の姿勢とかマインドについて、行政が上から目線で言うことはいかがなものかということもありますので、そこは民間の立場で呼びかけていただくことが大事ではないかなと思いますし、とても期待しております。
───最後になりますが、今回の改正に点数をつけるとしたら何点でしょうか。
そういうサイクルが機能するかしないかで、この改革への最終的な評価というのは、大きく分かれてくるのではないか、と思っていますので、引き続きしっかり取り組んでいきたいです。
───新制度がどう受け止められ、どのような潮流を生み出していくか、期待しております。本日はありがとうございました。
東京大学法学部卒。1994年旧総務庁入庁。総務省や内閣官房で、行政評価、行政改革等の業務に従事。公益認定等委員会事務局に2011〜2014年、2023年以降在職し、2024年7月から現職。
国立民族学博物館名誉教授、元内閣府公益認定等委員会常勤委員、本誌編集委員長。主な著者・共著に『公益認定の判断基準と実務』、『フィランソロピー』、『フィランソロピー税制の基本的課題』、新編著に『会計学と人類学のトランスフォーマティブ研究』等。
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