前内閣府事務局長 北川修氏
「公益法人のためだけの改革」ではなく
「国民のための改革」に
(きたがわ・おさむ
聞き手●出口正之
写真●柳原美咲
本年 5 月14日、「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の一部を改正する法律案」及び「公益信託に関する法律案」が衆議院本会議において、いずれも全会一致で原案通り可決、成立した。
法案の成立へ向けて実務を牽引してきた内閣府の北川氏は、このたびの改正法をどう評価するのか──。
平成18年の改革との違い
――公益認定法・公益信託法の改正法案が全会一致での可決となりました。平成18年 (2006年)に携わられた公益法人制度改革三法(法人法、認定法、整備法)のときと比較して、何か違いはありますか?
前回の改正のときは、「行革・構造改革」の一環でもあったため、一部の法人にはつらい面もあり、また野党の一部には反対もありましたが、今回は、民間公益活動活性化のため、国民のための改革だということで、党派を問わず賛成してくれました。公益法人に、民間公益のためにより一層活躍してもらおうというポジティブなメッセージが理解を得られて、全会一致という結果になったと考えています。
――今回の改正にあたって、慎重な意見というのはあったのでしょうか。
個別に国会議員の先生方にご説明して回っているなかでは、「不祥事も続く中、公益法人の規律を緩和して大丈夫なのか」とおっしゃる方はいました。よからぬ方向へ働くのではないかという懸念の声も聞きました。
そういったご指摘については、今回の制度改革は法人の自由度を拡大すると同時に、法人の透明性の向上を図り、自主・自律的ガバナンスをより充実させていく方向をあわせて進めるものですというご説明をして納得を得られるよう努めてきました。
――日本の場合は、個々の公益法人はそれなりの努力は重ねていますが、社会全体への受益の均霑という点では十分ではないような印象があります。今回も、公益法人への国民の理解・期待といった盛り上がりは、もっとあってもよかったのではないでしょうか。
私は、公益法人による社会課題解決に貢献する活動を一層伸ばしていくことは、ひいては国民にとって良くなることにつながるからと、「公益法人のためだけの改革」ではなく 「国民のための改革」ということを強調してきました。公益法人の活動が国民に身近に感じられ、一層国民のご理解とご支援を得られるものとなるよう、行政当局としても努めてまいりたいと思います。
公益法人に投げかけられたもの
――少し直截的かもしれませんが、今回の公益認定法の改正に点数をつけるとしたら何点ぐらいでしょうか。またその理由を教えてください。
なかなか難しい問いです。これは二様の回答があって、まず法案を国会に提出した政府の一員として言うと、100点です。現状で現実的に考えうるベストを国会に提案しているという立場ですから。けれども個人的にいろいろと考えれば、まだやり残したことはあると思っています。これが最終形ではないだろうと。しかしながら、政治的な情勢なども踏まえて、やれる時期にやらなくてはいけない。タイミング等を勘案してある程度コンパクトになるのはやむを得ません。まだやり残したことがあるという意味では、100点とはいきません。
公益二法案が可決・成立するまでの工程
令和 4 年10月 「新しい時代の公益法人制度の在り方に関する有識者会議」発足
令和 5 年 6 月 2 日 有識者会議における最終報告
令和 6 年 3 月 5 日 「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の一部を改正する法律案」及び「公益信託に関する法律案」(公益二法案) 閣議決定、国会に提出
令和 6 年 4 月 5 日 参議院本会議において賛成多数により可決
令和 6 年 5 月14日 衆議院本会議において全会一致で原案通り可決、成立
令和 6 年 5 月22日 公益二法、公布
※公益認定法の施行は令和 7 年 4 月予定、公益信託法の施行は令和 8 年度予定。
――今回の法改正は大きく踏み込んだものだと思いますが、それは公益法人側への投げかけ、期待に応えようと公益法人に頑張ってもらうための一石であったと考えます。その頑張りを国民が受け止めてくれることで、次のステップを昇るのだろうと理解しますが。
おっしゃるとおりです。ですから、衆参内閣委員会の附帯決議にある「5 年後の見直し」というのも、諸刃の剣であると思います。つまり、公益法人が、活動の自由度が増したことによって新たな社会課題解決等にチャレ ンジングに取り組み、それが国民から評価さ れるということにならないと、公益法人批判の世界に逆戻りしてしまって次のステップにも行けなくなってしまう。公益法人がこれから国民にどれだけ信頼され評価されるかにかかっていると思います。
――やり残したことというのは、具体的にどういうことですか。
個人的な思いになりますが、民間ソーシャルセクターの活動をより一層増進させる政策を推進するような要素を位置付けていきたいという思いがあります。そう考えたときに中間支援的な団体の役割も大きいと。これは、今回の制度改正の効果や社会情勢等の変化も見据えながら、今後の議論を期待したいと思います。
――実際、何か新しいことにチャレンジするにしても、公益法人の構造上なかなか難しい面があると思います。中間支援団体などいろいろなところが後押しになっていく必要性は感じます。
行政においても、前年と違う新しいチャレンジングなことをやろうとすると、なかなか動かないところがあります。
結局は、いかに、将来に向けた改革マインドをもった人材を得ていくかという話になると思います。民間ソーシャルセクターにおいて、世の中を変えていく改革マインドを持った人たちをどれだけ吸引していけるか、公益法人が活躍フィールドとしての魅力を発信していけるかというのは、大きな課題だと思います。
――過去の講演等の発言のなかで、今回の改正について「風をつかむ」という表現をされています。法案成立したことで、風をつかんだと言っていいのでしょうか。
一つ目の風、「新しい資本主義」の風には乗れたのかなと思います。社会課題解決に向けて民間のプレーヤーを幅広く動員していこうということで、法案も支持を得られたという感じです。
公益信託法改正
――公益信託法の改正については、公益認定法とは違う流れがあったのでしょうか。
公益信託法は、大正時代の法律のままでずっと放置状態にあり、2006年の公益法人制度改革にも乗り遅れていました。これをなんとかしなくてはということで法制審議会が公益信託法改正の要綱試案は出していましたが、どういう行政執行体制にするのか等について、 政府部内でコンセンサスに至らず、法案化できていませんでした。
私は、「新しい資本主義」の風は公益信託にこそ当てはまるのではないかと思いましたので、法務省ともご相談し、一緒にやっていこうという話になったものです。
――公益認定法・公益信託法、どちらの改正についても、これだけの歴史的なことをやり遂げるにあたって実務に携わった方々の苦労は想像に難くありません。2006年のときは、 110年ぶりの改革ということで明治以来の新しい国家像を求めて気持ちを昂らせた「風」 といったものがあったように感じます。今回、そのときのネットワークが生きた、ということはあったのでしょうか。
2006年の公益三法案当時の与党の中心であった先生に、今回また強力に推進していただきまして、不思議な運命的なものも感じたところです。
会計基準の改正の必要性
――今回の改正法成立にともなって、会計基準の改正についてはどのようにお考えですか。慎重な意見もあるようですが、改正の必要性を教えてください。
これは両論ご意見のあるところだと思いますので、たくさん議論が交わされたらいいと思います。今回の新制度が施行されるまで、まだ議論の過程にあります。
今回の制度改正で財務関係の規律が大きく変わりますので、それに対応した会計基準の改訂は当然必要になります。また、今回の制度改正の趣旨、国民から一層の寄付等を呼び 込んでいく観点から、国民にとって、よりわかりやすい財務情報の開示が求められると考えます。何をもって「わかりやすい」というのか、という点では、多種多様な非営利法人類型(一般社団・財団、学校法人、社会福祉法人、NPO法人、医療法人等)の比較可能性を向上させる、標準的な考え方というものを作っていくべきなのではないかと私は考えています。
もちろん議論のあるところだと思いますが、目指すところは、「国民から見てわかりやすい」、そこだと私は思います。今後、国際的な資金獲得競争という時代も見据えてどんどん寄付者のフロンティアを広げていく、というとき、「わかりやすさ」とは何だろうかと。公益法人には、願わくは非営利組織の会計をリードしていくポジションにあってほしいという思いはあります。
――確かに、会計の国際標準化というのも大きな課題だと感じます。今回の改正法で、公益法人側は自身へ投げかけられたものをきちんと生かし、次のステップに進めるよう皆で考えていかなくてはなりません。公益法人の今後のチャレンジを期待したいです。本日は ありがとうございました。
総務省大臣官房政策立案総括審議官。東京大学経済学部卒。1992年旧総理府入府。2003年から内閣官房行政改革推進事務局にて2006年の公益法人制度改革に携わる。その後、総務省や内閣官房において、独立行政法人制度改革、行政の組織・人事管理、行政評価等を担うポストを歴任し、2022年 6 月末から2024年7 月まで内閣府公益認定等委員会事務局長。
国立民族学博物館名誉教授、元内閣府公益認定等委員会常勤委員、本誌編集委員長。主な著者・共著に『公益認定の判断基準と実務』、『フィランソロピー』、『フィランソロピー税制の基本的課題』、新編著に『会計学と人類学のトランスフォーマティブ研究』等。
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