私立大学の自治とガバナンスの相克

(ほった・かずひろ 近畿大学名誉教授)
またまた私立大学の法人トップの背任行為の不祥事である。それはなぜか。なぜそれを防げなかったのか。
「なぜか」と問えばその背景を問う傾向があるが、なによりも罪を犯した本人が悪才に長けていたことは言うまでもない。本人が学校法人のミッションを考えたこともない権力志向者のうえに卑しい物欲の塊であったことであろう。
しかし、このようなトップのすげ替えだけでことが収まるわけではない。背任行為が出来するのは、その遠因には学校法人には所有権者が不在であり、利益分配を禁じられているという非営利組織の特質が潜んでいるからである。地位を利用した資産・資本等の私的流用、経費の役得利用など、経営者が自己の恣意的な選好をする自由裁量範囲が広いからである。
ここにトップが誇大妄想で私利私欲に耽る誘因、落とし穴がある。
実は数年前にも、理事長をめぐるスキャンダルがあり、それを契機として、改正私学法が今年4 月に施行された。それによれば、理事長は理事会の選解任権の下にあり、理事会は執行と統制を同時に担うことになる。
問題は、この理事会を構成する理事をどのように選ぶかにある。
確かに理事選任機関が設けられたが、それは「寄付行為」によるので、現理事たちが新理事を選び、この新理事が一員として加わる理事会が理事長を選び、その後は理事長が実態として理事を指定するという、理事長を監視するべき理事が理事長によって選ばれるというパラドックスとなる可能性がある。これでは理事長を統制するべき理事会が機能しない。
さらに、一律に法では律せられない規模の違いが加わる。大規模大学では、人数の多い理事会で執行と統制の役割が分離して、理事会内に執行を担う主流派とそれ以外の非主流派の派閥争いの危うさがある。中小規模大学ではごく少数の理事会で、それは理事長に従順な忖度ばかりの傀儡にすぎない惧れがある。
不祥事の根本原因の1 つは、公共統制を含む外部からのガバナンスの欠落にある。大学自治が外部ステークホルダーのガバナンスを締め出すというパラドックスである。そこで、大学が外部の権力や圧力から自治を本当に護りたいなら、自らを厳しく律する倫理や規範と自治の正当性を担保する必要がある。経営と教学の2 つのガバナンスに関する具体的な仕組みを工夫するよう自らに厳しく「自分流のガバナンス改革」を目指して、せめて「独自のガバナンス・コード」を公開するべきである。
神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了。商学博士。(公社)非営利法人研究学会前会長。主著に『フランス公企業の成立』(ミネルヴァ書房)、R.D. ハーマン/R.D. ヘイモビックス『非営利組織の経営者リーダーシップ』(共訳、森山書店)、『非営利組織の理論と今日的課題』(公益情報サービス)、『非営利組織理事会の運営』(全国公益法人協会)ほか著作、論文等多数。
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