第1回 関連当事者取引開示
~実力か、縁故か? 関連当事者への助成と開示の勘所~
(おおうち・たかみ (一社)構想日本 プロジェクトリーダー(公益法人担当))
事務局は、手続の公正さに自信を持っていた。募集は公募で行い、審査基準は事前に公表し、採点表と講評も保存している。役員は選考委員から除外し、選考過程への関与も明確に禁じてきた。
ところが、理事会付議の直前、事務局が形式確認として「役員・評議員との関係」を照合したところ、B氏が常務理事C氏の次男であることが判明。C氏は応募について関知しておらず、選考資料にも接触していない。事務局としては、実力で選ばれたことに疑いはないが、理事の子に200万円を交付することは、外部から「身内への利益供与」と受け取られないだろうか。研究者本人に余計な不安を与えたくないA財団としては、助成の公益性を守るだけでなく、透明性の面でもつまずけない。理事会当日が迫るなか、事務局は判断を迫られている。
助成決定にあたって押さえるべき「手続」と「開示」
結論として、A財団がB氏への助成を決定すること自体は差し支えありません。ただし、その前提として「適正な手続」を確実に履行するとともに、事業報告では事業活動に関する重要な事項として「関連当事者との取引の有無」を明記し、計算書類の注記においても「関連当事者との取引」として適切に開示することが不可欠です。
公益法人会計基準上、理事の次男は「二親等内の親族」として関連当事者に該当します。また、個人との取引額が年間100万円を超える場合には重要性が高いと整理され、取引内容の注記が求められます。現場でよくある誤解は、「適正な選考を行い、理事が関与していないのだから、身内びいきではなく、開示も不要ではないか」という考え方です。しかし、注記(開示)は取引の当不当を示すためのものではありません。利害関係のある相手方との取引があった事実を明らかにし、透明性を確保するためのものです。
むしろ、利害関係のある相手方との取引であることを正面から開示したうえで、「公正なプロセスを経て決定した」旨を併せて注記で補足することこそが、法人の説明責任と透明性を担保し、ひいては研究者本人の名誉を守る“盾”にもなります。
1 理事会における「特別利害関係者」の除外
法人法95条により、常務理事C氏は当該議案について「特別の利害関係を有する理事」に該当します。したがって、C氏は当該議案の審議および決議に参加できません。事務局は、C氏が退席した、または採決に加わらなかった事実を議事録に明確に記載します。
〈議事録記載例〉
なお、第〇号議案について、C理事は特別の利害関係を有する理事に該当するため、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第95条の規定により、当該議案の審議及び決議には加わらなかった。
2 公益認定基準(特別の利益)への備え
後日の立入検査等で「理事の子への利益供与ではないか」と指摘された場合にも、当該採択が「公募」「外部審査」「実力本位」のプロセスに基づくことを直ちに説明し、資料で裏付けられる状態にしておきます。具体的には、審査基準、採点結果、選考委員会の議事録などの根拠資料を、所定の保管ルールに従って適切に整理・保管します。
3 関連当事者取引の注記(説明責任)
関連当事者としての注記は必須です。ただし、事務局長が懸念するような不要な憶測を招かないためには、注記の書き方を戦略的に設計することが重要です。特に「取引条件の決定方針」欄を効果的に用い、公益法人会計基準運用指針が求める記載要素(個人の属性・職業、関係、取引内容・金額、取引条件の決定方針等)を欠かさず盛り込んだうえで、①公募・外部審査により決定したこと、②当該役員が選考および理事会決議に関与していないことを、評価ではなく事実として明記します。
なお、運用指針は「個人の属性・職業」の記載を求めていますが、氏名の記載までは明示していません。そこで、関係性は「当法人常務理事の近親者」など、関連当事者に該当する理由が分かる範囲にとどめ、職業も「研究者」など必要最小限の記載とすることで、個人が過度に特定されるリスクを抑えられます。
会計監査人等がいる場合は、監査対応も見据え、開示内容を事前にすり合わせておく運用が現実的です。
〈関連当事者との取引の内容:注記の記載例〉
(一社)構想日本 プロジェクトリーダー(公益法人担当)。内閣府公益認定等委員会の委嘱により新公益法人制度普及啓発員、新公益法人制度に係る相談員、公益法人等制度に係る相談員を歴任。
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