事例集から見る社団・財団の経営改革
2019年04月12日

上松公雄
(うえまつ・きみお 税理士・大原大学院大学准教授・全国公益法人協会首席研究員)
(うえまつ・きみお 税理士・大原大学院大学准教授・全国公益法人協会首席研究員)
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目 次
まえがき
平成21年度から平成25年度にかけて、総務省による「第三セクター等の抜本的改革」が集中的に推進され、平成26年度以後も第三セクター等自らの判断と責任による効率化・経営健全化への取組みが求められている。この第三セクター等における経営健全化等の更なる推進を図ることを意図して、総務省からは、これまでに取り組まれた改革等の事例をとりまとめた「第三セクター改革等先進事例集」(以下、「事例集」という。)が作成、公表されている(注1 )。
事例集は、①第1 章・これまでの第三セクター等改革の状況、②第2 章・抜本的改革を含む経営健全化を行った事例、③第3 章・地方創生の観点から第三セクター等を活用している事例の3 章から構成され、第2 章において96事例、第3 章において27事例が採り上げられ、資料を含めて全体で569頁に及ぶ大部の書類となっている。
本稿においては事例集第2 章「⑵経営健全化に取組んだ事例」のうち社団法人及び財団法人による取組みの内容について確認するとともに、経営健全化に必須となる取組みについて抽出を試みるものとする。
Ⅰ 社団法人及び財団法人の取組み
事例集第2 章は、⑴整理・再生等の抜本的改革を行った事例、⑵経営健全化に取組んだ事例から構成され、さらに⑴は、①解散、②統合、③出資引揚(民営化)、④その他、に区分され、⑵においては、①経営改革に取組んだ事例(経常赤字から経常黒字への転換、債務超過の解消等)、②損失補償等を削減した事例に分類されている。上述したとおり、第2 章では96事例が採り上げられているところ、社団法人及び財団法人の取組みとしては、まず、⑴においては、①解散6 件、②統合8 件、③出資引揚(民営化) 1 件、④その他5 件となっている。 次いで、⑵においては、①経営改革に取組んだ事例(経常赤字から経常黒字への転換、債務超過の解消等)15件、②損失補償等を削減した事例2 件となっている。
さらに、事例集第3 章は、⑴地方公共団体の区域を越えた活動、⑵民間企業の立地が期待できない地域における事業実施、⑶公共性、公益性が高い事業の効率的な実施、に分類され、全体で27事例が採り上げられている。このうち、社団法人及び財団法人の取組みは、⑴がゼロ、⑵ 1 件、⑶11件である。
いずれの区分も興味深いが、事業継続が前提とされ、より前向きな取組みであり、なおかつ、汎用性が高いと考えられる「経営改革に取組んだ事例(経常赤字から経常黒字への転換、債務超過の解消等)」(以下、単に「経営改革に取組んだ事例」と表記する。)の15件について、「Ⅱ」において、その内容を確認するものとする。
Ⅱ 「経営改革に取組んだ事例」の内容の要点
繰返しとなるが、事例集第2 章において採り上げられた「経営改革に取組んだ事例」のうち、社団法人及び財団法人によるものは15件存在する。以下においては、各事例において目標、目的とされた事項、それを達成するための課題や採用された方策、対応について整理する。
① 売店・飲食店の拡充に重点を置いた施設改修による道の駅の魅力向上((一財)道北地域旭川地場産業振興センター〔北海道〕)本事例においては、大きな目標、目的は必ずしも明らかではないが、事業再構築による収益改善が必要とされ、施設(道の駅)の入館者数及び売上を増大させるため、施設のリニューアルとともに、売店等の運営の民間への移管、業務の拡大が行われた。また、人件費と電気料金の削減を内容とするコスト削減が行われている。
② 資産運用規定の全面改正による効率的な債券ポートフォリオ運用((公財)ふるさといわて定住財団〔岩手県〕)本事例は法人の財政基盤の強化が目標とされ、保有債券の運用方法を見直して利息収入の確保、増大を図ったものである。
法人自体の事業や業務について直接的に見直すものではなく、特殊な事例といえる。ただし、低金利時代において、いかに保有資産を運用して利息収入を確保、増大するかは多くの法人(特に、財団法人)において関心が高い事項であり、詳細については、事例集を参照されたい。
もっとも、当該法人が、苦労した点として「机上の理論的知識だけでなく現場の経験が重要であること」を挙げ、反省すべき点として「リスクマネジメントの手法の研究」が必要とするなど、実際の運用は容易ではないことが改めて確認できるところとなっている。
(公財)ふるさといわて定住財団公式HPより
③ 受託牛の受入体制強化と人件費・飼料費の削減フォリオ運用((公財)山梨県子牛育成協会〔山梨県〕)本事例は畜産振興と財務状況の改善が目標、目的とされ、役務提供能力(施設の受入体制)の強化と人件費の抑制・人員削減によるコスト削減、さらに、職員の意識改革・スキルアップが対策として採られている。
④ 指定管理者制度導入による自己財源の確保とコスト削減の持続的取組((公財)三重県文化振興事業団〔三重県〕)本事例は、指定管理者として、他の「競争先に負けない『組織の体力』をつける」ことが目標、目的とされ、自己財源の確保とコスト削減に取り組まれている。そして、自己財源の確保のための方策として、公的助成金獲得の推進及び法人協賛会員制度の導入による収入の多様化が図られている。
法人協賛会員制度が有効に機能すれば、新たな財源として財政基盤の安定化に資するものと考えられ、一般的な関心も高いものと思われるが、事例集には、どのようにすれば機能するかなどの情報は含まれていない。
また、本事例においては、施設利用者数の増加、利用者満足度の向上のためにサービス向上が掲げられ、さらに、組織力強化につながる方策として職員の自発的改善を促すことが挙げられている点に注目される。
⑤ 不採算施設の閉鎖と人件費の削減((一財)奈良県健康づくり財団〔奈良県〕)本事例においては、独自採算による自律的な法人運営が目標、目的とされ、主としてコスト削減による経営改善が図られている。
コスト削減の具体的内容としては、人員の削減と人件費の見直し、また、不採算事業(
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