第1回 公益法人現場におけるゆらぎと自己組織化
(よしなが・みつとし 本誌編集委員 / 九州共立大学経済学部教授)
行政との関係や世代交代のなかで揺れる公益法人の現場。そのゆらぎ(混乱)は、新たな秩序が生まれる前兆です。戦略・組織・人のふるまいを「自己組織化」と「ゆらぎ」の視点で捉え直し、組織が自律的に成長するヒントを探ります。
本連載の目的と背景
予算の制約、行政庁との複雑な調整、そして避けては通れない職員の高齢化や世代交代。公益法人の現場に立つ皆さんの日常は、マニュアルどおりにはいかない「単純には解決できない問題」の連続ではないでしょうか。
組織がガタついている、先行きが見えない……。そんな時、私たちはつい「管理が足りないのではないか」「計画が悪いのではないか」と自分たちを責めてしまいがちです。しかし、筆者の自己組織性(組織が自律的に秩序を生み出す性質)の視点から見れば、その不安定さこそが、組織が新しく生まれ変わるための「産みの苦しみ」かもしれません。
本連載では、現場で起きる摩擦や不安を「ゆらぎ」という言葉で捉え直し、そこからいかにして「新たな秩序」が生まれるのか――。単なる理論ではなく、私自身が現場で感じてきた「熱」とともに、皆さんと考えていきたいと思います。
この連載は、公益法人(自治体外郭団体を含む)を対象に、戦略・組織・人のふるまいを「自己組織性」と「ゆらぎ」の視点から捉え直す試みです。
経営学組織論パラダイム、自己組織性概念
坂下昭宣氏は『経営学への招待』(白桃書房)のなかで、「戦略を立てる」「組織をつくる」「人を動かす」という連関の中で捉えています。
それは、組織が静的な設計物ではなく、環境との相互作用のなかで動態的に形成されていく過程を示しています。さらに、理論的含意よりも実践的含意を重視する点に特徴があり、筆者もその姿勢に強く共感しています。本連載も、そのような社会実装を意識したうえで、制度と公共性に強く規定された公益法人組織に経営学を適用し、その運営の実態をリアルに描き出していきたいと考えています。
また、筆者は、このような経営学における組織論パラダイムのもと、長年、自己組織性という概念研究を行ってきました。その鍵概念には、「ゆらぎ」「秩序」、そして「自己言及」があります。筆者は、このような一定の視角から、組織現象を分析しています。本連載でしばしば登場する「ゆらぎ」とは、組織内に発生する緊張感や危機感、不安定感といった既存の秩序が揺らぐ局面です。それは、運営上立ち上がってくる問題や課題に直結する事象が多くあります。そして、人々が、こうした問題や課題(ゆらぎ)に自らの状況を振り返りながら向き合い、思考し、葛藤する過程を経て、そこから新たな秩序を形成します。この一連の過程が、筆者の考える自己組織化現象のメカニズムです。換言すれば、組織は、こうしたゆらぎのなかで、判断や関係調整、試行錯誤を通じて意思決定をしていきます。
つまり、ゆらぎは、新たな秩序が立ち上がる契機として理解することができ、単なる悲観の対象ではありません。
自己組織化現象のメカニズム
現場のリアルに熱を感じながら読む
現場感覚としては、そのような悲観を先行きが見えない暗闇のように感じるかもしれません。しかし、そこには、次の秩序が立ち上がる可能性が内包されています。このような悩みや葛藤を含めた「人間くささ」を含んだ、熱のある言葉を意識して、よりリアルに、公益法人(外郭団体)で起きている自己組織化現象を捉えていきたいと考えています。
ただし、ここで提示される視点や解釈は、あくまで筆者が、現場での実務経験を通じて体得してきたものです。そのため、必ずしも一般理論として完成されたものではありません。現場の文脈や個別事情に強く依存する部分も多く、現場経験に根差した視点であるため、一定の主観性を含みます。そのうえで、本連載は、普遍的な解答を提示することよりも、読者一人ひとりが自らの経験と照らし合わせながら、部分的に共感し、共に考え、実践に活かすための素材を提供することを意図しています。
とりわけ、公益法人の現場では、行政庁との関係をはじめ、制度改革、財源制約、特殊な人的構造、また最近では、職員の高齢化や世代交代など、さまざまな「ゆらぎ」事象が常態化しています。これらは、ときに不安定化や混乱として語られることもあります。
本連載の具体的な構想
以上のことから、本連載では、組織の戦略、組織の設計、財源、外部との関係性、外部との関係調整、人の態度認識、そして世代交代というテーマを検討しています。いずれも、自己組織化プロセスの異なる断面を照らし出します。そこでは、トップダウンの設計や制度論だけでは捉えきれない、現場の合理性や外部との関係性の編み直しが浮かび上がってきます。そして、とりわけ、外郭団体は、閉鎖的・硬直的な行政システムではなく、環境との相互作用のなかで、揺れながら存続してきた「生きた組織」として再定義していきたいと考えています。
最後に、本連載の狙いは、外郭団体を含む公益法人運営が「うまくいっている/いない」という評価軸から切り離し、どのようなゆらぎのもとで、どのように自己組織化しているのかを丁寧に描くことにあります。その結果、実務家にとっては、自らの経験を言語化する手がかりを、研究者にとっては、公共組織を捉える新たなフレームを提供することを目指していきたいと考えています。
連載をはじめるにあたって
2025年3月に、公益法人(自治体外郭団体)の現場を離れてから、早いもので1年が経過しました。そして、その経過とともに、実務者としての記憶が遠のいていく感覚があります。それは、数年も経てば、「現場実務者の苦労に寄り添えないのではないか」という不安のようなものです。だからこそ、経験がまだ熱を帯びているうちに、備忘録として本連載にしたため、多くの実務者や研究者に還元したい。それが本連載の出発点です。
ここで申し伝えておきたいことは、筆者は自治体外郭団体の研究者であるということです。しかし、本誌の中心的読者であるほかの公益法人をないがしろにするつもりはありません。外郭団体には、公益法人をはじめ、公社、株式会社、社会福祉法人など多様な法人格が存在します。このうち、公益法人では、財団であれば寄付者たる自治体、社団であれば会員、あるいは出捐者である自治体との関係性があります。
その一方で、民間出資の公益法人では、自治体に代わる「大口の民間寄付者(個人・企業)」が存在します。したがって、根拠法が同じである公益法人としての仕組みや外部との関係性などには、類似するところがあります。そのような意味で、筆者の経験を公益法人全体に通じる構造として、受け止めていただければ幸いです。
本誌編集委員。九州共立大学経済学部教授。30年超の公益財団法人勤務を経て現職。自治体外郭団体・公益法人の組織運営を研究。
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