第9回 新型コロナ禍の喧騒に見る「科学から空想へ」

藤島寒月
(ふじしま・かんげつ フランス現代社会学者)

 かつてエンゲルスは、自著『空想から科学へ』(1880年)において、マルクスの「偉大な発見」によって「社会主義は科学になった」と宣言した(国民文庫版、87頁)。
 エンゲルスがいうマルクスの「偉大な発見」とは、唯物史観と剰余価値説の 2 つである。サン・シモン、フーリエ、オーウェンら、マルクス以前の社会主義者たちが唱えた社会主義は、もっぱら人道主義によるものであり、理論的な根拠を持たない「空想」だったというのである。
 新型コロナ対策のあるべき論に熱弁を振るう一部の有識者の言説に接すると、エンゲルスの上記の「宣言」を、筆者は懐かしく思い出さずにはおれない。ちなみに後年、ポパーによって、マルクスの社会主義論は反証可能性を欠いた疑似科学に過ぎないとされた。

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