業務執行理事の職務執行状況報告書の書き方・伝え方
(あさみ・たかゆき 弁護士)
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業務執行理事は理事会において自らの職務の執行状況を報告しなければならないが、何をどのように報告したらよいのか、本人が知らないことも少なくない――。
Ⅰ 社団・財団法人の職務執行状況報告義務
一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下、「一般法人法」という。)には、一般社団法人・一般財団法人(以下、「法人」という。)の代表理事及び代表理事以外の業務を執行する理事(以下、「業務執行理事」という。)に、3か月に1回以上、自己の職務の執行状況を理事会に報告することを義務付けています(なお法人は、毎事業年度に4か月を超える間隔で2回以上〔例えば6か月間隔で年2回〕の報告をしなければならないと、定款に定めることもできます〔一般法人法第91条2項、197条〕。)。
ただ一般法人法は、報告すべき内容や方法を具体的には定めていません。実務的な課題は、業務執行理事は、自己の職務の執行状況をどのような内容を、かつ、どのような方法・程度で報告すればよいのかということです。
昨今、法人内部での不正を防ぐために「ガバナンス」の要請が高まっていますが、業務執行理事が自己の職務の執行状況を形だけ報告して済ませるようでは、「ガバナンス」の要請に応えることはできません。
そこで、本稿では一般法人法が業務執行理事に職務執行状況の報告を求めている理由まで遡った上で、業務執行理事が報告すべき職務執行状況の内容と方法・程度を解説します。
Ⅱ 報告が求められている理由
業務執行理事が自己の職務の執行状況を理事会に報告しなければならない理由は、法人の「ガバナンス」を機能させるためです。ガバナンスの内容は3点に整理できます。具体的には、①理事の善管注意義務(忠実義務)、②理事相互の監督義務、③理事会の理事に対する内部統制です。
以下、この3点に分けて説明します。
1 善管注意義務(忠実義務)
法人と理事は「委任」の関係にあります。つまり業務執行理事は法人から職務の執行を委ね任せられているということです(一般法人法第64条、197条)。「委任」の関係ですから、業務執行理事は法人に対し「善管注意義務(忠実義務)」を負います(民法第644条、一般法人法第83条、197条)。法人の職務執行を委ね任せられ、法人の経営を善良に管理している者の立場で、法人の利益のために注意しながら職務を執行しなければなりません。
そこで、業務執行理事は法人の利益のために職務を執行した結果や職務執行の進捗状況を理事会に報告するのです。これから執行しようとする職務についても理事会に報告します。
これらの報告を通じて自分の利益や第三者の利益のために職務を執行している(執行した)のではないという、業務執行理事の法人に対する忠実性や廉潔性を明らかにすることができるのです。これは、業務執行理事が自己の職務の執行状況を報告する上で最低限求められていることです。
2 理事相互の監督義務
理事会を設置している法人の場合、理事会は、代表理事を含む理事すべての職務執行を監督する義務を負っています(一般法人法第90条2項2号、197条)。これは理事会から理事に対する「ガバナンス」の一環であり、「モニタリング」と呼ばれることがあります。
監督とは、理事の職務の執行状況を単に見る(モニター)だけではありません。理事による職務の執行状況が妥当・適正であるかどうかを判断し、不当・不正であると判断したときには、代表理事を代表職から解職する、業務執行理事を担当から外し別の理事と担当替えする、理事としての職務執行を止めさせるなどを理事会が決定することまで行うのです。
業務執行理事は、理事会に自己の職務の執行状況を報告し、それによって、他の理事から、自らの職務執行の結果や進捗状況が職務担当者として相応しいかを監督されるのです。
報告を受ける理事は、他の業務執行理事から報告された内容をもとに、業務執行理事の職務執行の妥当性・適正性を判断し、監督するのです。
つまり、各業務執行理事は、自らの職務の執行状況を理事会に報告すると同時に他の理事から監督され、かつ、他の業務執行理事が理事会に報告した職務の執行状況を監督するという形で、お互いに監督し合っているのです。
理事による相互監督の観点からは、業務執行理事は、自らの職務執行状況を他の理事に監督してもらえる程度に質の伴った内容を報告しなければなりません。
他方、報告を受ける理事は、自らが監督できるだけの質の伴った内容を他の業務執行理事から報告してもらわなければなりません。他の業務執行理事が職務執行状況を不十分にしか報告していない場合には、報告を受ける理事は、報告している業務執行理事に対して報告内容の補充を求めなければならないのです。
理事が他の理事を監督しなければならない対象は、理事会に報告された職務の執行状況に限られません。法人の業務内容全般、すなわち他の理事が理事会には報告しなかった職務の執行状況までをも監督しなければなりません(一般法人法第90条2項2号、197条)。
そのため、他の理事が執行している職務の内容に疑問があるときには、理事会の場で報告するように請求することも必要です。
また、他の理事が執行している職務で不祥事や事故などが発生した場合、理事は、代表理事に対し緊急理事会の招集を求め、かつ不祥事や事故などが発生した職務を担当している理事に対し、緊急理事会へ直ちに報告する、緊急理事会前でも情報を理事相互に共有できるように求めなければなりません。もちろん、不祥事や事故などが発生した職務を担当している理事は、理事会や他の理事から要求されなくとも、自発的に、直ちに理事会に報告し、他の理事と情報を共有しなければなりません。
このように理事相互が緊張感を保ちながら職務を執行することは、理事相互の監督義務によるガバナンスの目的でもあります。
一般法人法は3か月に1回以上の報告を理事に義務付けています(一般法人法第91条2項、197条)。ある業務執行理事が理事会を欠席し続けるなどして3か月以上理事会での報告を怠っていると、報告を怠っている期間、その理事は他の理事から監督を受けていないことになります。また、その期間、報告を受けるべき理事は、報告を怠っている理事を監督していなかったことにもなります。
この場合、理事は報告を怠っている業務執行理事に対して職務執行状況を報告するように求めることも必要です。理事会を欠席している理事に対しては、理事会への出席を促すことも不可欠です。
3 意思決定機関である理事会との関係
理事会は、重要な業務執行について意思決定する機関です(一般法人法第90条2項1号、4項、197条)。そうした機関であるからこそ、理事会は「ガバナンス」の一環として、業務執行理事が理事会の意思決定に反した職務執行をしていないかをチェックし、理事会の意思決定に反する職務を執行していれば、それを止めさせ、理事会の意思決定に則して職務を執行するようにコントロール(統制)し、「内部統制」を機能させることが要請されています(一般法人法第90条4項5号、197条)。
例えば、理事会が「高齢化社会に向けた介護事業を積極的に展開していく」と公益目的事業に関する方針を決したにもかかわらず、業務執行理事が「中高年の雇用環境の改善が社会的使命」との信条から、転職市場に関わる公益目的事業を開始したとしましょう。
理事会は「介護事業を積極的に展開していく」と意思決定したのですから、この場合、業務執行理事は介護事業の展開を職務として執行しなければなりません。転職市場に関わる職務の遂行は、理事会決議を無視していることになります。理事会は、事業方針を無視した業務執行理事の職務執行を止めさせなければなりません。その契機となるのが、業務執行理事による理事会に対する職務の執行状況の報告です。
意思決定機関である理事会から業務執行理事に対する「内部統制」を機能させるためには、業務執行理事が現に執行している職務の進捗状況のほか、既に執行し終わった職務の結果、さらにこれから執行しようとしている職務の内容を、理事会に報告しなければなりません。特に、多額の借入など一般法人法が理事会決議事項と定めている職務(一般法人法90条4項2号、197条)に加え、一定規模以上の取引など法人内部の規程で理事会付議事項と定めている職務については、執行前に理事から理事会に報告し、執行の是非について理事会の決議を仰ぐ必要があります。
4 報告を怠った場合の責任
業務執行理事が職務の執行状況を理事会に報告することは法的義務です(一般法人法第91条2項、197条)。業務執行理事が何ら報告することなく職務を執行し、その結果、法人に損害を発生させた場合、業務執行理事を社員総会・評議員会で「解任」する正当な理由になります(一般法人法第70条1項・2項、197条)。代表理事も代表から「解職」されるだけではなく、理事を「解任」される正当な理由になります。
また、業務執行理事は職務執行による責任だけでなく、報告義務違反をも理由にして法人から損害賠償を請求されてしまうこともあります(一般法人法第111条1項、198条)。典型的な事例は、既存収益事業を任されている業務執行理事が独断で事業を拡大するために追加投資をしたものの、収益事業が失敗し、追加投資費用の分だけ法人が損害を被ったケースです。
ある理事が必要な報告を怠っていることに気がつかなかった他の理事は、監督義務や内部統制システム(大規模法人以外は任意。一般法人法第76条3項3号及び第90条4項5号、197条)といったガバナンスを機能させていなかったことについて責任を問われます。
ガバナンスを機能させていなかった理事は解任される正当な理由になり、かつ法人から損害賠償を請求されてしまうこともあります。
⑴で挙げたケースでいえば、業務執行理事が法人の既存収益事業を拡大するために追加投資していること、あるいは追加投資した後に事業が順調かどうかについて、他の理事は、どこかの段階で気づくことができたはずです。その段階で、業務執行理事に職務の執行状況を理事会に報告させ、他の理事から監督させる、理事会での決議対象にさせるなどしていれば、法人の損害を最小限に防ぐことができたはずです。それにもかかわらず、業務執行理事が理事会に報告していないことを放置し、報告させませんでした。そこについて責任を問われるのです。報告しなかった業務執行理事だけが責任を問われるわけではないことに注意しなければなりません。
Ⅲ 理事会に報告すべき職務執行状況の内容と程度
1 報告のルール化
業務執行理事は、質の伴った内容で職務の執行状況を報告しなければなりません。
しかし、理事会に報告する内容を各業務執行理事の裁量に委ねてしまうと、それぞれの判断次第で理事会に報告する内容の質に差が出てきてしまいます。報告内容の質を一定に保つためには、各業務執行理事が報告すべき対象となる職務をルール化して決しておくことが望まれます。
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